コナンと髑髏の都 ( ロバート・E・ハワード )
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ランサー版コナンの開幕。作品は平均レベルですが、コナンの魅力で楽しく読めます。
題名 | 作者 | 評点 | コメント |
---|---|---|---|
はじめに | スプレイグ・ド・キャンプ | ||
洞窟の怪異 | スプレイグ・ド・キャンプ、リン・カーター | 6.5 | 囚われの身から脱出した16歳のコナンは、ある洞窟にたどり着く。そこでミイラ化した戦士の長剣を奪おうとするのだったが..。まずは無難なイントロである。 |
象の塔 | ロバート・E・ハワード | 6.0 | ハワードによるコナン3作目。象の塔にあるという宝石を盗みに忍び込むコナン。その後の展開は平板でありふれている。 |
死の広間 | ロバート・E・ハワード、スプレイグ・ド・キャンプ | 5.0 | 追ってきた傭兵隊長を言葉巧みに抱き込むなど、だいぶ世故に長けてきたコナン。強大なナメクジの怪物とは滑稽で緊張感がないな。 |
石棺のなかの神 | ロバート・E・ハワード | 6.5 | 博物館内部で見つかった死体。忍び込んでいたコナンは現場で拉致されるのだった。登場人物も多彩で読ませるが、取ってつけたような結末が残念。 |
館のうちの凶漢たち | ロバート・E・ハワード | 7.0 | ハワードによるコナン7作目。捕縛されたコナンは開放と引き換えにある人物の暗殺を依頼される。進化過程の猿人とは陳腐だが、中盤から早い展開で読ませる作品。 |
ネルガルの手 | ロバート・E・ハワード、リン・カーター | 6.0 | 戦場に倒れている少女を救ったコナン。それは彼の助力を依頼する使者であった。コナンが格好良すぎるな。 |
髑髏の都 | スプレイグ・ド・キャンプ、リン・カーター | 5.0 | 虜囚となったコナンは奴隷の身となるが、黒人の友とともに反撃に移る。ご都合主義が目立つ。 |
ハイボリア時代1 | ロバート・E・ハワード |
ロバート・アーヴィン・ハワード(Robert Ervin Howard)[1906-1936]はアメリカの作家。ヒロイック・ファンタジー生みの親と言える存在です。(その人となりについては、ウィキペディア(Wikipedia)を参照してください。)
彼の代表作である「蛮人コナン」シリーズは、1950年代に「Gnome Press」で全7巻にまとめられていましたが、圧倒的な人気を得たのは1966年から刊行された「Lancer Books」(全12巻)によるものでした。編者である L. Sprague de Camp と Lin Carterは、ハワードのオリジナルに加え、未発表だった作品などを加えることで、コナンの一代記を形成しています。また、Frank Frazetta が描く表紙の迫力もその人気を押し上げた要因でしょう。 ただ、ハワードが生前発表した作品以外に、編者による模作で水増し、年代記に仕立てたことについては、少なからず批判があるようです。
このシリーズが日本に紹介されたのは1970年代の初めですが、ハヤカワ文庫が Gnome Press 版を、創元推理文庫が Lancer Books 版を底本にし、競合している状態でした。ハヤカワ版は全8巻で完結しましたが、創元版は7巻で中絶という情けない結果となってしまいました。
わたしは、このシリーズを70年後半にハヤカワ文庫版読んでいましたが、今回は創元推理文庫版をベースに、Lancer Books 版の軌跡をたどってみたいと思います。
Lancer Books 版は、下記の12巻で構成されていますが、創元推理文庫の7冊以降もハヤカワ版で、10巻までは日本語で読めるようです。11、12巻は、L. Sprague de Camp と Lin Carter の共著なので、まあ手に入るようなら読んでみる、その程度のスタンスで行きます。
No. | 原書 | 翻訳 |
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01 | Conan (1967) | コナンと髑髏の都 (1971) |
02 | Conan of Cimmeria (1969) | コナンと石碑の呪い (1971) |
03 | Conan the Freebooter (1968) | コナンと荒鷲の道 (1971) |
04 | Conan the Wanderer (1968) | コナンと焔の短剣 (1972) |
05 | Conan the Adventurer (1966) | コナンと黒い予言者 (1973) |
06 | Conan the Buccaneer (1971) | コナンと毒蛇の王冠 (1973) |
07 | Conan the Warrior (1967) | コナンと古代王国の秘宝 (1974) |
08 | Conan the Usurper (1967) | (ハヤカワSF文庫)大帝王コナン (1972) “Wolves Beyond the Border"を除く |
09 | Conan the Conqueror (1967) | (ハヤカワSF文庫)征服王コナン (1970) |
10 | Conan the Avenger (1968) | (ハヤカワSF文庫)復讐鬼コナン (1971) |
11 | Conan of Aquilonia (1977) | 未訳 |
12 | Conan of the Isles (1968) | 未訳 |
なお、生前にハワードが発表したコナンシリーズは、下記の全17作にすぎません。2列めに創元推理文庫版の巻数を入れてありますが、7巻で中絶してしまったため、初期の2作と16作目が未掲載になっていますが、これらは「大帝王コナン(ハヤカワSF文庫)」、「征服王コナン(ハヤカワSF文庫)」で読むことが出来ます。
No. | 巻数 | タイトル | 原題 |
---|---|---|---|
01 | 不死鳥の剣 | The Phoenix on the Sword (1932/12) | |
02 | 真紅の城砦 | The Scarlet Citadel (1933/1) | |
03 | 1 | 象の塔 | The Tower of the Elephant (1933/3) |
04 | 3 | 黒い怪獣 | Black Colossus (1933/6) |
05 | 5 | 忍びよる影 | The Slithering Shadow (1933/9) |
06 | 5 | 黒魔の泉 | The Pool of the Black One (1933/10) |
07 | 1 | 館のうちの凶漢たち | Rogues in the House (1934/1) |
08 | 3 | 月下の影 | Shadows in the Moonlight (1934/4) |
09 | 2 | 黒い海岸の女王 | Queen of the Black Coast (1934/5) |
10 | 4 | 鋼鉄の悪魔 | The Devil in Iron (1934/8) |
11 | 5 | 黒い予言者 | The People of the Black Circle (1934/9-11) |
12 | 3 | 魔女誕生 | A Witch Shall be Born (1934/12) |
13 | 7 | 古代王国の秘宝 | Jewels of Gwahlur (1935/3) |
14 | 7 | 黒河を越えて | Beyond the Black River (1935/5-6) |
15 | 4 | ザムボウラの影 | Shadows in Zamboula (1935/11) |
16 | 竜の刻 | The Hour of the Dragon (1935/12-1936/4) | |
17 | 7 | 血の爪 | Red Nails (1936/7-10) |
さて、シリーズ開幕となった「コナンと髑髏の都」ですが、読んでみるとあまりぱっとした作品がありません。こんな第1巻で人気が出たのだろうかと不審に思ったのですが、どうやらそうではないようです。
編者のスプレイグ・ド・キャンプが本書の「はじめに」にて、下記のように語っています。
第一巻が本書である。続刊は四巻が既巻で、 Conan the Adventurer Conan the Warrior Conan the Usurper Conan the Conqueror がそれであって、本巻と Conan the Adventurer とのあいだの空隙を埋めるものと、コナンの晩年における冒険を伝えるものが、なお数巻、刊行計画が進行中である。
要するに、これ以前に4冊既刊があるというわけです。5巻目の Conan the Adventurer には「黒い予言者」、5巻目の Conan the Warriorには「血の爪」といった傑作中編が並んでいますから、営業政策として当然そちらを先に出版したのでしょう。なるほど、それなら多くの読者から人気を得たということもうなづけます。
Conan the Adventurer の Frank Frazetta による表紙絵をこちらで見ることができます。これも影響を与えたことでしょう。もし、この4巻が読者に受けなかったら、「コナン年代記」という編者の狙いも達成できなかったかもしれません。
なお、「石棺のなかの神」は死後原稿が発見されたものですが、L. Sprague de Camp 自ら「些少な変更のみ」と語っていることで、オリジナルの扱いになっているようです。
創元推理文庫 1971年4月23日 初版 1971年7月16日 再版 317ページ 200円