シグナルは消えた トラベル・ミステリー1 ( 鮎川哲也編 )

大阪圭吉の筆力に感心、夏樹のアリバイ物パロディに笑わせてもらったので、良しとしましょう。


題名 作者 評点 コメント
蒔かれし種 本田緒生 3.0 [新青年 大正14年4月]古臭い小説を長々と読まされたうえに、この犯人設定はないだろう。
股から覗く 葛山二郎 5.0 [新青年 昭和2年10月]展開がゴタゴタしていてまとまりがなく、設定の面白さを活かせていない。
省線電車の射撃手 海野十三 5.5 [新青年 昭和6年10月]電車内での連続殺人という設定は面白いのだが、結末は尻すぼみ。
狂った機関車 大阪圭吉 7.0 [新青年 昭和9年1月]専門知識がないとよくわからない展開だがディテイルが面白い。犯人をもっと早く出しておけばよかったのに。
山陽新幹線殺人事件 夏樹静子 7.0 [問題小説 昭和50年10月]アリバイトリックは大したことはないが、ラストのフレーズには笑ってしまった。
吹雪心中 山田風太郎 4.0 [推理ストーリー 昭和38年5月]10年ぶりに再会した男女は温泉で密会するが、吹雪に閉じ込められてしまう。人間の浅ましさが目立つだけのつまらない作品。

光文社カッパノベルズで、「下り”はつかり”」「急行出雲」「見えない機関車」と三冊の鉄道アンソロジーを編纂した鮎川哲也ですが、今回は場を徳間書店に移しての登場。正直言って、もう鉄道アンソロジーにはいささか食傷気味なのですが、さてどうでしょうか。

戦前の無名作家の作品を掘り出してきても、ほとんど見るべきものがないのは今までのの経験からも明らかなのですが、やはりアンソロジストとしては、そういう作品を数作入れたいものなのでしょう。残念ながら今回の本田緒生「蒔かれし種」もその例にもれませんでした。
同じ戦前の作品でも大阪圭吉の「狂った機関車」はやはり格が違います。この作品は大阪のベストではないでしょうが、詳細に書き込まれた機関車の描写に圧倒されます。さすが英訳まで出た作家ですね。
戦後の作家では、夏樹静子の「山陽新幹線殺人事件」も面白い。シリアスなアリバイ崩しを丁寧に書き込んでおいて、最後で皮肉るのはなかなか見事。

徳間文庫版は全6冊ですが、これは先にトクマノベルズから出版された「鉄道推理ベスト集成1」、「鉄道推理ベスト集成2」「復讐墓参 鉄道推理ベスト集成3」「一等車の女 鉄道推理ベスト集成4」の4冊を再編成したもののようです。


徳間文庫 1983年2月15日初刷 285ページ 360円