ラヴクラフト小説全集01 ( H.P.ラヴクラフト )

後半の作品の出来が今一つ。それもあって全体としての盛り上リに欠けます。


題名 作者 評点 コメント
錬金術師 H.P.ラヴクラフト 6.5 処女作らしい。ありふれたストーリー展開だが、古臭さは感じない。
ポラリス H.P.ラヴクラフト 5.0 ファンタジーめいた話なのだが、よくわからない。
妖犬 H.P.ラヴクラフト 5.0 墓泥棒が妖犬に取り憑かれる話だが、犬は恐怖対象として弱いせいか、あまり怖さを感じない。
潜み棲む恐怖 H.P.ラヴクラフト 8.0 呪われた一家が住んでいた館に潜む恐怖。地底の悪鬼が怖い。
壁のなかの鼠 H.P.ラヴクラフト 6.0 鼠の恐怖には今ひとつ迫るものがない。
忌まれた家 H.P.ラヴクラフト 5.0 これまた呪われた一家とその館の話だが、長い割に盛り上がりに乏しい。
ピックマンのモデル H.P.ラヴクラフト 7.0 天才画家が描く地獄絵がなかなかの迫力で迫ってくる。
異次元の色彩 H.P.ラヴクラフト 7.0 謎の隕石に汚染された地帯に住む一家は全員死亡していく。少し長くくどいが作者の筆力に圧倒される。
ナイアルラトホテップ H.P.ラヴクラフト 5.0 謎の人物を描いただけの小品。
闇に這う者 H.P.ラヴクラフト 4.0 コケ威しレベルの話で盛り上がらない。
ランドルフ・カーターの弁明 H.P.ラヴクラフト 7.5 友人の最後を語るという形式が新鮮。ラストの1行も効いている。
銀の鍵 H.P.ラヴクラフト 5.0 カーターという不思議な男を語っているだけ。
銀の鍵の門の超えて H.P.ラヴクラフト 2.0 時空を超えた男を扱ったSF仕立ての話だが、ダラダラ長く読むに耐えない。
怪奇小説のコペルニクス フリッツ。ライバーJR
わが少年期を語る H.P.ラヴクラフト
文化現象としてのラヴクラフト 荒俣宏
作品解題 荒俣宏

 「暗黒の秘儀」に続いて、創土社は「ラヴクラフト小説全集」を企画。下記は巻末に記載されていた発行予定ですが、以下のラインアップで計画していたようです。

1 短篇I: 異次元の色彩/錬金術師/潜み棲む恐怖/ランドルフ・カーターもの三篇/ほか全13篇
2 短篇Ⅱ: 超時間からの投影/死人使いハーバート・ウェス 霧のなかの奇妙な家/戸口にひそむもの/レッド・ラックの恐怖/ほか全15篇
3 中篇I: 未知なるカダスを求めて/インスマスの影/チャールズ・ウォード事件
4 中篇Ⅱ: 狂気の山にて/闇にささやく者/ダニッチの怪/魔女屋敷で見た夢
5 書簡 エッセイ: ラヴクラフト書簡/ク・リトル・リトル神話研究/ 文献/小説における超自然(完訳)

 しかしながら、どういう事情があったかはわかりませんが、この「ラヴクラフト小説全集」、残念ながら「第1巻と第4巻のみで中絶」してしまいました。この前年の1974年には創元社より文庫本で、「ラヴクラフト傑作集1」が出ているようなので、2000円を超える高価な単行本は敬遠されたのかもしれません。
なお、本格的な「ラブクラフト全集」は、国書刊行会から1984年から出版された「定本ラブクラフト全集(全11巻)」を持つことになります。これが現状の決定版でしょう。

 さて、今回はその第1巻を通読してみたわけですが、後半の作品の出来が芳しくなく、尻すぼみの感が否めませんでした。荒俣宏の「作品解題」から察するに、ラヴクラフトの各時代における作風の変遷をたどる意図があったようですが、当時の読者にそれが最適だったとは思えません。先に読んだ「暗黒の秘儀」にも、そのような傾向が見られたのですが、後半の作品の出来がそれを払拭していました。
しかし、今回は巻末作品「銀の鍵の門の超えて」が「中二病が書いたSFか?」とでもいうべきお粗末な作品だったこともあって、読後感がよくありません。どんな作家にも駄作はありますが、これを全集第1巻のトリに置いているようでは、その行く末は自ずと明白だったと言うべきでしょう。


創土社 1975年8月25日 初版発行 513ページ 2200円