レールは囁く トラベル・ミステリー5 ( 鮎川哲也編 )

宝石新人作家の意外な佳作にびっくり。


題名 作者 評点 コメント
月の光 利根安理 7.5 [宝石増刊 昭和31年1月]夜汽車に乗り合わせた男が語る昔話。田舎の風景と幻想的な雰囲気がうまく書けている。
昇華した男 迫羊太郎 3.0 [別冊宝石 昭和33年2月]何というつまらん話。
孤独な詭計 幾瀬勝彬 4.0 [小説宝石 昭和48年1月]医薬品会社内のスパイによる殺人なのだが、犯人が顔を見せないのはミステリとしていかがなものか。
まさゆめ 野呂邦暢 7.0 [カッパまがじん 昭和52年1月]正夢で出世していく男。ストーリーテリングの旨さが光る。
杭を打つ音 葛山二郎 5.0 [新青年 昭和4年11月]筋書きは予想通り。改行のない文章が恐ろしく読みづらい。
観光列車V12号 香山滋 7.0 [探偵倶楽部 昭和26年2月]アフリカを舞台にした活劇。悪くない出来。
信濃平発13時42分 下条謙二 6.0 [立教ミステリ17号 昭和50年5月]楽屋ネタが楽しい。

巻頭の利根安理「月の光」は宝石新人コンテスト参加作品。このコンテストの作品は、商業レベルに達していない作品がほとんどなので、全く期待していなかったのですが、これが予想以上の出来でびっくり。
解説で「入賞作家銓衡座談会」における江戸川乱歩、水谷準、城昌幸のコメントが紹介されているのですが、乱歩はかなり高く評価しているのに、水谷は『これは探偵小説とは言えない。(中略)落第点というとすこしつよすぎるかもしれないけれども、及第点をつけませんでした。』と酷評。そんなことを言えば、水谷の作品もほとんど探偵小説でないと思うのだけど、どこが気に食わなかったのかなあ。
ちなみに、「宝石作品総目録」を見ると、利根安理の作品はこの一作のみのようです。

続く迫羊太郎「昇華した男」も宝石コンテスト参加作品。これは予想通りの出来。これがまあ、宝石テイストでしょう。

ラストの下条謙二「信濃平発13時42分」はなんと同人誌に載った作品。ミステリマニアの実態が楽しい作品ですが、ここまで手を広げてしまうと「鉄道アンソロジー」もそろそろ品切れといったところなのでしょう。


徳間文庫 1983年6月15日初刷 285ページ 360円