「別冊宝石」傑作選 甦る推理雑誌9 ( ミステリー文学資料館編 )

読ませる作品はほんの一握り、後は素人レベル。それが「別冊宝石」ですね。


題名 作者 評点 コメント
赤痣の女 大坪砂男 3.0 [別冊宝石 昭和23年7月]情けないほどつまらない話を長々読まされる身にもなってほしい。
罪な指 本間田麻誉 7.5 [別冊宝石 昭和24年1月]密室殺人と心理分析を組み合わせた中々の力作。いささか時代を感じさせるのは致し方なし。
翡翠荘綺談 丘美丈二郎 5.0 [別冊宝石 昭和24年12月]合理的な結末をつけるかと期待したが、単なる怪奇譚で終わってしまうとは失望以外ない。
背信 南達夫(直井明) 2.0 [別冊宝石 昭和26年12月]改行なしにダラダラ続く文章に閉口。独りよがりの小説は苦痛以外ない。
私は誰でしょう 足柄左右太(川辺豊三) 7.0 [昭和27年12月別冊「新人二十五人集」]宝石推理小説傑作選2で読了済。
袂春信 5.0 [別冊宝石 昭和27年12月]不思議な女の描写は中々ユニークだが、まとまりに乏しい。
消えた男 鳥井及策 7.0 [別冊宝石 昭和27年12月]わざと巡査を殴って警察に保護を求めた男の奇妙な発端と、ラストのひねりはなかなか面白い。ただ、作者の筆力が今ひとつなのが残念。
何故に穴は掘られるか 井上銕 5.0 [別冊宝石 昭和28年12月]ちょっとした思いつきだけで書かれた話。
アルルの秋 鈴木秀郎 6.0 [別冊宝石 昭和28年12月]小説として読ませるが、ミステリとしては何も面白くない。
みかん山 白家太郎(多岐川恭) 7.5 [昭和二十八年 別冊宝石]続・13の密室で読了済。
  • 雑誌『宝石』といえば、戦後の日本探偵小説界を牽引した存在であり、ここから登場した作家は少なくありません。戦後五人男と言われた、高木彬光、山田風太郎、香山滋、大坪砂男、島田一男などはその代表といえるでしょう。
  • しかし、その一方で応募された小説をそのまま『別冊宝石 新人二十五人集』という形で安易に活字化してしまい、中途半端な作家、作品を粗製濫造してしまった弊害も、また少なくありません。今回のアンソロジーにもそれが強く現れており、素人くさい小説を読まされるのには、いささかウンザリしました。
  • この巻で、注目すべきなのは本間田麻誉という作家でしょう。残した作品は五作のみで、その後の消息は不明のようですが、今回の「罪な指」と続けて発表された「猿神の贄」は、非常に印象に残る作品です。
    この作品について、江戸川乱歩は宝石(昭和25年1月)に『「猿神の贄」について』と題した一文を寄せ、『今年に入ってから、これほど感銘を受けた作品は他になかったと云っていい。』としたうえで、『この作が、主題に於いて、心理的手法に於いて、作者の情熱に於いて、力作感に於いて、今年度に於ける抜群の作品であることは間違いないところだと思う。』と絶賛しています。
    ただ、ここに収められたた「罪な指」については、『最初の心理試験に取材した作品は読んだけれども、あれには大して感心しなかったので、その後、この作者の名が雑誌に見えても、つい読む気がしないでいた。』と言ってますけど(笑)。
    いずれにしても、これだけ乱歩に絶賛された作家が、その後消えてしまったのいうのは、どういう事情があったのかはわかりませんが、全く惜しい限りです。

光文社文庫 2003年11月20日 初版1刷発行 508ページ 743円+税