宝石推理小説傑作選3 ( 「宝石推理小説傑作選」編集委員(鮎川哲也・大内茂男・城昌幸・高木彬光・中島河太郎・星新一・山村正夫・横溝正史) )

傑作選にふさわしくない作品が散見、「宝石」のレベルを疑う一巻でした。


題名 作者 評点 コメント
賭ける 高城高 5.0 [昭和33年2月]フェンシングを題材にしたところは新味があるが、全体として暗く盛り上がらない。
かあちゃんは犯人じゃない 仁木悦子 7.5 [昭和33年2月]現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)で読了済。
斎藤哲夫 2.0 [昭和34年7月]擬人化した話だが、面白くない上に気持ちが悪い。なんでこんな作品が選ばれたのだろうか。
おーいでてこーい 星新一 8.0 [昭和33年10月]日本代表ミステリー選集01 口笛ふいて殺人をで読了済。
タロの死 竹村直伸 7.0 [昭和34年4月]子供がもらってきた犬から過去の事件が浮かび上がってくる。結末は予想できるが、構成は悪くない。
貸借 桶谷繁雄 4.0 [昭和34年5月]ストーリーが平板で、ひねりもなく面白みに乏しい。「逃亡将校」というシリーズ物のようだが、続けて読む気にはなれない。
被害者は誰だ 邱永漢 6.0 [昭和34年5月]ミステリとしては全く評価できないが、楽天的な主人公の行動が面白い。
團十郎切腹事件 戸板康二 6.5 [昭和34年12月]歌舞伎に疎いので今ひとつ面白さがわからない。一人二役はともかくとして、その後のひねりはうまい。
散歩する霊柩車 樹下太郎 8.0 [昭和34年12月 増刊号]日本代表ミステリー選集03 殺しこそわが人生で読了済。
青い火花 黒岩重吾 6.5 [昭和35年1月]日本代表ミステリー選集05 殺しの方法教えますで読了済。
狂熱のデュエット 河野典生 4.0 [昭和35年5月]河野の作品はどれも賞味期限が切れている。
夜明けまで 大藪春彦 7.5 [昭和35年6月]逃亡する強盗犯に侵入されたバンガローの男女。反撃は..。さすが大藪読ませる。河野の後に読むと才能の違いがよくわかる。
お助け 筒井康隆 6.0 [昭和35年8月]人の数倍のスピードで動いてしまう男の話。着想は面白いけど、それだけ。
飢渇の果 南條範夫 7.5 [昭和35年9月]サスペンス劇場の原作にピッタリの作品。速いテンポと意外な犯人で読ませます。
ロンリー・マン 山川方夫 7.0 [昭和35年10月]ショートショートだが、ラストの設定が面白い。
十五年は長すぎる 笹沢左保 6.5 [昭和36年2月]殺人の時効を待つ女の前に現れた昔なじみの男。ラストの虚しさは笹沢独特のもの。
渡辺啓助 4.0 [昭和36年3月]異国を舞台にしたSFチックな作品なのだが、何が書きたいのかよくわからない。
狂生員 陳舜臣 5.0 [昭和36年10月]得意の中国物だが、今回は結末がよくわからない。
親友記 天藤真 7.0 [昭和36年12月]日本代表ミステリー選集12 犯罪教室ABCで読了済。
年下の亭主 新章文子 6.5 [昭和38年4月]年上の妻を殺害使用と目論む男の計画は。明るいラストが良い。
闇の中から 戸川昌子 5.0 [昭和38年9月]新婚夫婦に嫌がらせを仕掛けているのは、昔の女なのだろうか。暗い話で今ひとつ。
女か怪物か 小松左京 6.0 [昭和38年9月 別冊]「女か虎か」の舞台を宇宙に持っていっただけで、いささかオリジナリティに乏しい。
長い暗い冬 曾野綾子 7.0 [昭和39年2月 別冊]日本代表ミステリー選集06 人肉料理
墜ちた男 谷川俊太郎 4.0 [昭和39年3月]よくわからない話。
化石の街 広瀬正 7.0 [昭和39年3月 別冊]時間のスッ住み方が遅い世界に紛れ込んでしまった男の悲劇。イメージがなかなか凄い。
評論座談編
<座談会>推理小説と文学 松本清張、平野謙、江戸川乱歩 [昭和34年5月]
推理小説五つの悪口 谷川俊太郎 [昭和34年6月]
紳士ワトソン 椎名麟三 [昭和34年8月]
成吉思汗という名の秘密 仁科東子 [昭和34年9月]高木彬光の「成吉思汗の秘密」に寄せられたもの。
ノンプロ推理小説論 大内茂男 [昭和34年10月 増刊]
シャーロッキアンの旅 長沼弘毅 [昭和37年11月]
<座談会>戦後推理小説界を語る 角田喜久雄、中島河太郎、黒部竜二、大河内常平 [昭和37年11月 増刊]角田の慧眼が光る座談会。
ハードボイルド派の末裔たち 権田万治 [昭和38年8月 別冊]
「宝石」総目録 中島河太郎監修
  • これで「いんなあとりっぷ」の「宝石推理小説傑作選」全三巻を読み終えたわけですが、収録作品のレベルの低さにはがっかり。「宝石」そのものの本質的な問題なのか、セレクションに問題があるのかはわかりませんが、とても「傑作選」にはそぐわない作品が散見、いささか閉口しました。
  • 戦前の「新青年傑作選」を読んでいたときには、そのような感を覚えることが殆どなかったことを考えると、戦後の「宝石傑作選」に対し、このような感想を述べざるえないのは、残念としか言いようがありません。平行して読んでいる「角川文庫版」に名誉回復、一縷の望みを託しましょう。
  • 「<座談会>戦後推理小説界を語る」の中で、角田喜久雄の発言がとにかく群を抜いてレベルが高い。少し引用しておきます。
    『僕は安吾さんがもし生きていたら、おそらく松本清張氏よりむしろ早くこの波の中に第一線に立っていたんじゃないかということを非常に思うんですよ。』
    『乱歩さんが本当に生涯をぶち込んでいるというのは、やはりこれは立派なものだよ。江戸川乱歩と「宝石」という大きな柱だよね。』
    『女性読者というのはいま一般にふえていますよ。(中略)だからいつも女を狙えというのが、今日ではなんの世界でもそうだが、ことにふえたね、推理小説』
    『とにかくいま質ははるかによくなっています。ということは、いまいったように推理小説というものがいろいろな意味で認められるし、需要も多くなり市場も広くなり、商売になる。そういうふうになると、優秀な作家が集まってくるということですね。』

株式会社いんなあとりっぷ 昭和四十九年六月十五日発行 581ページ 限定版八八八部 定価弐萬七阡円 三巻一セット