密室殺人傑作選 競作シリーズ3 ( 中島河太郎編 )

本邦密室アンソロジーの先駆けにしては、ぱっとしない内容ですね。


題名 作者 評点 コメント
偽装自殺 大谷羊太郎 5.0 [小説サンデー毎日 昭和46年3月]オチがよくわからいません。
降霊術 山村正夫 6.5 [推理ストーリー 昭和37年3月]38年前に自殺した許嫁を降霊術で呼び出し、遺産相続を確定しようとする男が密室内で殺される。舞台設定はすごいが、解決は腰砕け。
妻恋岬 藤村正太 5.5 [宝石 昭和30年1月]トリックのための小説は読んでいてつまらない。
悪魔の函 鷲尾三郎 5.5 [富士 昭和28年4月]このトリックはこの作品のものだったのか。小説としては人物像を含め、もはや古臭い。
雪の犯罪 楠田匡介 6.0 [探偵新聞 昭和23年5月]北海道の田舎町での密室殺人。乱歩の「類別トリック集成」にもある有名なトリックだが、この作品だったのか。
高天原の犯罪 天城一 7.5 [別冊旬刊ニュース 昭和23年5月]昔は語り口と論理に感動したものだが、今は感受性が薄くなってしまったのか、再読を許さない趣向なのか、さほど感心しなかった。
密室の鎧 戸板康二 5.0 [宝石 昭和36年10月]辻褄合わせだけのトリックと意外性のない展開。凡作である。
密室学入門 土屋隆夫 8.0 [宝石 昭和36年10月]作中での密室談義は楽しいし、ラストのオチも効いている。この巻では屈指の出来だった。
  • 密室アンソロジーと言えば、先に取り上げた「13の密室」が有名ですが、その発行は昭和50年5月12日。昭和49年11月30日発行の本書は、それに先駆けること半年、まさに「本邦初の密室アンソロジー」の栄誉を担うものと位置づけられます。
  • しかしながら、この2つを比較してみると、作品揃えから製本などを含めた風格、全てにおいて「13の密室」が上回ります。別にビッグネームを集めろとは言いませんが、この「密室殺人傑作選」で取り上げられた作家、作品ともマイナー感を拭いきれず、見劣りすること一目瞭然です。
  • 「密室殺人傑作選」で特筆すべきことと言えば、「13の密室」でも触れましたが、「天城一再評価の嚆矢」となったことぐらいでしょうか。

なお、序文では、中島河太郎が「単純なだけに難解な謎」と題し、密室物について概論を記述しています。

産報 昭和49年11月30日 第1刷発行 229ページ 600円