密室殺人大百科(上) 魔を呼ぶ密室 ( 二階堂黎人編 )

どんなテーマでも筆力が物を言う、それがよくわかりました。


題名 作者 評点 コメント
疾駆するジョーカー 芦辺拓 7.0 殺人現場に現れたジョーカーのイメージと犯人の動機が考えられている。
罪なき人々vs.ウルトラマン 太田忠司 7.5 アパートの階下で自殺を見守る人間に張本人から脅迫のメッセージが..。着想が良いしストーリー展開も面白い。
本陣殺人計画 横溝正史を読んだ男 折原一 6.0 本陣のパロディなのだが、結末は妙におかしい。
まだらの紐、再び 霧舎巧 5.0 犯人の設定が効いていない。トリックもつじつま合わせだけ。
閉じた空 鯨統一郎 7.5 気球上の不可能犯罪を朔太郎が暴く。設定とトリックが面白い。
五匹の猫 谺健二 5.0 足跡トリックは稚拙だし、何回も繰り返されるつまらない推論にはいささか白ける。
泥具根博士の悪夢 二階堂黎人 6.5 力作中編なのは認めるが、何重にもなっているトリックは面白味を感じない。軽くてもいいから、一本で決めないとすっきりしない。
マーキュリーの靴 鮎川哲也 7.0 [瑠珀 昭和55年7月]トリックは単純な方が効果的なのだとわかる好例である。
クレタ島の花嫁 贋作ヴァン・ダイン 高木彬光 5.0 [宝石 昭和28年12月]ゴタゴタした展開で、事件の輪郭がよく理解できない。
デヴィルフィッシュの罠 ジョン・ディクスン・カー 8.0 サルベージ現場での事件と過去が巧みにリンクしてくる展開はさすがである。
  • 「密室」をテーマにした書き下ろし作品集前編。どの作品も力作で楽しく読めました。結局、カーの作品が一番面白かったというのは貫禄勝ちかな。
  • このアンソロジーを通読するとよくわかるのは、密室物といえどもトリックを支えるストーリー展開と筆力がなければ、面白い作品は生まれないということです。小説家としてのレベルが如実に現れますね。
  • 付録ではロバート・エイディーの{Loccked Room Murders」の序文が「密室ミステリ概論」として訳されています。
この本の本体は、密室ミステリ作品の一覧表なのですが、作品に対するコメントは「Detective」と「Problem」の各一行のみ。労作だとは思いますが、序文以外に読んで面白い部分はほとんどないので、翻訳はこれで十分でしょう。原書は再刊されているので、入手は容易です。
  • 二階堂黎人の「密室殺人アンソロジー」は、日本で翻訳されている密室物アンソロジーの一覧。

原書房 2000年7月21日 第1刷 531ページ 2000円