密室殺人大百科(下) 時の結ぶ密室 ( 二階堂黎人編 )

テーマを絞ると、作者のレベルがはっきりわかるのが面白い。


題名 作者 評点 コメント
死への密室 愛川晶 5.0 消失トリックは悪くはないが、登場人物像や展開を含めて、すべて子供っぽい。
夏の雪、冬のサンバ 歌野晶午 8.0 違法滞在人ばかりの古アパートでの殺人。トリックはクスクス笑いたくなるほど面白いし、趣向も洒落ている。感心しました。
らくだ殺人事件 霞流一 6.5 少し詰め込み過ぎのうえ、必然性に乏しい所が散見。でも落語絡みのギャグは楽しい。
答えのない密室 斎藤肇 3.0 ストーリー退屈。謎解き陳腐。
正太郎と田舎の事件 柴田よしき 7.0 正太郎という猫が主人公。いささかキワモノだが、正太郎の視点で語られる人物像がしっかりしているので楽しく読める。密室物とは言えないけど。
時の結ぶ密室 柄刀一 4.0 機械トリックだけのミステリはつまらない。
チープ・トリック 西澤保彦 6.5 不良少年の死にまつわる不可能設定。無理はあるが悪くない。
虎よ、虎よ、爛爛と 101番目の密室 狩久 3.0 [幻影城 昭和51年3月]こんな独りよがりの話を長々と読まされる身になってほしいよ。
ブリキの鵞鳥の問題 エドワード・D・ホック 6.0 ホックとしては平凡な作品だが、話の進め方、謎の提示のしかたなど、やはりうまい。
  • 「密室」をテーマにした書き下ろし作品集後編。この中では、歌野晶午の作品が飛び抜けて出来が良かった。続いて柴田よしきでしょうか。上巻でも同じようなことを述べましたが、結局、密室トリック云々ではなく小説としてしっかり成り立っているかどうかがポイントなのでしょう。一方で、同人誌レベルの作品もあって、その差が際立っているのが、妙に印象に残ります。
  • このアンソロジーですが、その後講談社文庫に入ったようです。
その際には、下巻の「正太郎と田舎の事件」が上巻へ移り、下巻には新たに加賀美雅之の「縛り首の塔の館 シャルル・ベルトランの事件簿」が追加されました。その意味では、文庫版のほうがお得ですね。
  • 下巻の評論は下記。一般的な解説で、エイディーの「密室ミステリ概論」(上巻)ほどのインパクトはありません。
    「密室講義の系譜」 小森健太朗
    「日本の密室ミステリ案内」 横井司

原書房 2000年7月27日 第1刷 543ページ 2000円