幻のテン・カウント 本格推理名作リバイバル ( 鮎川哲也編 )

昭和20年代「宝石」の作品レベルなんて、こんなものです。


題名 作者 評点 コメント
青鬚の密室 水上幻一郎 5.0 [昭和二十五年七月 妖奇]ミステリーの愉しみで読了済。
テニスコートの殺人 岩田賛 5.0 [別冊宝石 昭和23年7月]トリックも犯人のあぶり出し方も陳腐。
疑問の指輪 鷲尾三郎 4.5 [宝石増刊 昭和24年7月]溺死トリックは面白いのだが、犯人の設定をもう少し考えるべきだった。
黄色の輪 川島郁夫(藤村正太) 6.5 [別冊宝石 昭和24年12月]検討はつくが乱歩の初期短篇を思わせる展開で読ませる。
犠牲者 飛鳥高 8.0 [宝石 昭和25年12月]雪国の寺での殺人事件。作品の雰囲気が良いし、文章もしっかりしている。殺人トリックも面白い。
5-1=4 島久平 6.5 [宝石 昭和28年1月]通俗ものだが速いテンポで読ませる。
アリバイ 藤雪夫 4.0 [昭和二十九年十一月 探偵実話]ミステリーの愉しみで読了済。
Fタンク殺人事件 仁科透 6.5 [週刊朝日別冊 昭和33年9月]意外性を狙ったのだろうが、動機を含めて説得力に乏しい。
ある密室の設定 宮原龍雄 4.0 [宝石 昭和35年11月]貧乏くさいアパートでの密室殺人。古臭いトリック論にウンザリ。
春嵐 天城一 4.0 [SRマンスリー増刊 昭和57年7月]商業誌に掲載されるはずのない話。何が書きたいのかよくわかりません。

宝石」は戦後の日本探偵小説界を代表する雑誌ですが、そこで発表された作品のレベルについては問題も多く、玉石混交というか、どちらかと言うと石ばかりというのが正直な感想です。特に昭和20年代については、現代ではとても通用しない作品が相当量を占めているように思われます。
このブログでは数回に渡って、「宝石傑作選」を読むと題し、それらの作品を取り上げてきましたが、その代表とでも言うべき、「いんなあとりっぷ」社の宝石推理小説傑作選1を読んだ感想は下記のようなものでした。

「宝石推理小説傑作選」の第一巻。期待して読み始めたのですが、はずれの作品ばかりで、正直がっかりしています。「小説編」26作読んで、出来が良いと感心したのは、天城一、本間田麻誉、狩久の3篇だけとは情けない。

さらに、角川文庫版の死者は語らず 宝石傑作集1では、

読み出す前に、角川文庫版の「宝石傑作選集」の作品リストで初出を見ていたのですが、昭和32年以降の作品がほとんどであることに気が付きました。作品のレベルを優先すると、自ずから、こういうセレクションになってしまうのでしょうか。
この点について、編者の中島河太郎は『ここでは回顧的に作品を並べるより、現在の視点に立って選ぶことにしたので、おのずと三十年代に傾いた。しかもほとんどが乱歩氏出馬以後の作品であることも、推理小説界の潮流が大きく動いたと見てよい。』

とあり、30年以降の作品ばかりがセレクションされています。ようするに、20年代にはたいした作品はないと言外に匂わせているわけです。

さて、今回のアンソロジー収録作のほとんどが、「宝石」昭和20年代の作品だとわかった時点で、あまり期待しないで読み始めたわけですが、結果はご覧のとおり、予想の通りとなりました。
ただ、その中で飛鳥高の「犠牲者」だけは飛び抜けて出来が良く、感心しました。作家専業でないにも関わらず、その後「細い赤い糸」で日本推理作家協会賞受賞した実力をすでに示していたということでしょう。