怪奇傑作選 血染めの怨霊 ( 中島河太郎編 )

未読作品に見るべきものがなかったのが残念。


題名 作者 評点 コメント
奇妙な夫婦 島田一男 6.0 [昭和29年4月小説公園]現代の推理小説(第3巻) ロマン派の饗宴で読了済。
ネンゴ・ネンゴ 香山滋 6.5 [宝石 二十八年十一月]日本代表ミステリー選集08 殺意を秘めた天使で読了済。
死人に口あり 木々高太郎 4.0 [オール読物 昭和12年7月]霊界からの手紙という趣向だが、解決がひどい。
怪音 草野唯雄 7.0 [小説宝石 昭和47年8月]失踪事件があった家に起こる謎の怪音。筋書きは予想できるか悪くない展開。
死霊 朝山蜻一 2.0 [宝石増刊 昭和30年3月]月下の殺人鬼 宝石傑作集3・怪奇幻想編で読了済。
佐門谷 丘美丈二郎 7.5 [昭和26年12月別冊「新人競作二十五篇集」]宝石推理小説傑作選1で読了済。
女臭 鷲尾三郎 3.0 [傑作倶楽部 昭和28年8月]猫になってしまった男の話。ファンタジーになっていない戯言だ。
棚田裁判長の怪死 橘外男 5.0 [オール読物 昭和28年5月]単なる因縁話で何のひねりもなく拍子抜け。
ネコヤナギの下にて 三橋一夫 5.5 [新青年 昭和24年12月]あの鶏は妻の愛人の生まれ変わりなのか。他愛のない話。
進化論の問題 新羽精之 8.5 [宝石増刊 昭和37年1月]地獄に落ちろ! 宝石傑作集2・サスペンス編で読了済。

この作品集は見開きの紹介文によると、

「血染めの怨霊」ーーー 夜な夜な闇夜に泣き咽ぶ声は、獣の咆哮なのか、亡者の呼び声なのか。それは、ひとときの歓楽をむさぼる男と女の肌に、うらみのおもいをこめてしのびよる。恐ろしい怨念の世界へ誘う、怪奇小説選。

とのこと。いささか大仰で陳腐な表現ですが、編者の中島河太郎は「解説」で、

怪奇小説への郷愁は、人間の根源に繋がっている。科学の万能でないことに直面した畏怖の念が、怪奇に惹かれ、そのネベライゼーションにおのずと執着を抱くのであろう。殊に現代人はおどろおどろしい怪異は、荒唐無稽と断じても、日常性に潜む戦慄には、かえって魂のおののきを覚えざる得ない。
本書では怪奇・幻想・探偵小説の分野で、それぞれ作家の個性を発揮しながら、玄妙不可思議な世界に挑戦して、光彩に富んだ作品を選んでみた。

と述べています。こちらのほうが意図が明確ですね。

このアンソロジーでは、新羽精之「進化論の問題」と丘美丈二郎「佐門谷」のニ作品が飛び抜けていますが、これは既読。今回初めて読んだ作品にはレベルが低い作品が散見され、残念な結果となってしまいました。

さて、本書が発行された昭和51年といえば、横溝正史の作品が続々と角川文庫で紹介され一大ブームを巻き起こしていた時期です。先に紹介した見開きの惹句などにもその影響が感じられますが、そのおかげで本書のような地味なアンソロジーでも出版されることになったのでしょう。


KKベストブック社 昭和51年5月30日 初版発行 213ページ 600円