怪奇探偵小説集 ( 鮎川哲也編 )

遺憾ながら低調な作品が多く、いささかうんざりさせられました。


題名 作者 評点 コメント
悪魔の舌 村山槐多 7.0 [武侠世界 大正4年7月]荒唐無稽の話なのだが、迫力ある文体に引き込まれる。
白昼夢 江戸川乱歩 6.5 [新青年 大正14年7月]小品ながら鮮やかな幻想譚。
怪奇製造人 城昌幸 6.0 [新青年 大正14年9月]ちょっとしたひねりが面白いが、怪奇を製造できているとは思えない。
死刑執行人の死 倉田啓明 4.0 [新青年 大正15年1月]古臭いSM読み物なのだが、下品さがないのが救いか。
B墓地事件 松浦美寿一 4.0 [新青年 昭和2年2月]古臭い怪談。
死体蝋燭 小酒井不木 6.5 [新青年 昭和2年10月]予想はできるオチだが、まとまりが良いのはさすが。
恋人を食う 妹尾アキ夫 5.0 [新青年 昭和3年5月]話は単純なうえ、ラストが今ひとつ。
五体の積木 岡戸武平 4.0 [新世界 昭和4年8月]これもつまらない落とし話。
地図にない街 橋本五郎 5.0 [新青年 昭和5年4月]ラストで明かされる筋書が突然で陳腐。
生きている皮膚 米田三星 3.0 [新青年 昭和6年1月]退屈な因縁話。
謎の女 平林初之輔 6.0 [新青年 昭和7年1月]平林の遺作で事件は全く起こっていない。
謎の女(続編) 冬木荒之介 6.0 [新青年 昭和7年3月]面白い展開なのだが、ラストがいささか平凡で惜しい。
南沢十七(南澤十七) 3.0 [新青年 昭和7年3月]荒唐無稽な筋書と辻褄の合わない結末。どうしようもない。
恐ろしき臨終 大下宇陀児 6.5 [新青年 昭和8年10月]さすがに大家の作品は安心して読める。
骸骨 西尾正 6.0 [新青年 昭和9年11月]迫力のある描写には感心するが、何のひねりのない展開はいささか冗漫である。
横溝正史 5.0 [新青年 昭和11年7月]短い怪奇譚。あまり効果的とは言えない。
乳母車 氷川瓏 4.0 [宝石 昭和21年5月]正直言って、理解できません。
飛び出す悪魔 西田政治 4.0 [宝石 昭和22年2月]予想通りの展開で平板。
幽霊妻 大阪圭吉 7.5 [新探偵小説 昭和22年4月]犯人の正体は妙におかしいが、説得力はある。
  • このアンソロジーは、鮎川哲也が最初に手がけた作品集だと記憶しています。その意味で期待したのですが、いささか期待はずれ。古臭いのは我慢するとしても、そもそも読むに耐えぬレベルの作品が多く、残念なレベルと言わざるえません。
  • 編者の言葉として、『怪奇小説の黄金時代は戦前にあったとみて間違いはなかろう。そして、探偵小説のメッカといわれた雑誌「新青年」の黄金時代もまた戦前にあった。そこでこの一巻は、主として大正末期から昭和十年頃の「新青年」に掲載された作品で埋めた。しかも珍しい作品を中心に編んだ。この機をのがせば二度と読むことのできぬ作品も多いのである。』とありますが、珍しさを重視するあまり、作品の出来を軽視しすぎましたね。
  • なお、このアンソロジーですが、後に文庫版が出ています。その際には、倉田啓明「死刑執行人の死」、松浦美寿一「B墓地事件」、平林初之輔「謎の女」、冬木荒之介「謎の女(続編)」は割愛されているようです。まあ、省いてよい作品はまだまだありますけど。

双葉社 昭和51年2月10日 初版発行 300ページ