怪談ミステリー集 ( 中島河太郎編 )

出来不出来はあるものの、どれも楽しく読める作品集。


題名 作者 評点 コメント
死者は鏡の中に住む 多岐川恭 6.5 [講談倶楽部 昭和34年4月]死んだ男に怯える夫妻。夫の死後、妻は自分の番ではないかと怯える。結末が今ひとつなのが残念。
逃ける 小松左京 7.5 [オール読物 昭和51年10月]ポン引き老人に久しぶりにあった男は、幽霊のような女を紹介されるのだが。ラストが面白い。
妖説血屋敷 横溝正史 8.0 [富士増刊 昭和11年4月]戦前の横溝がこんな怪談ミステリを書いているとは知らなかった。二段構成で意外な結末まで持っていくのはさすがである。
幽タレ考 半村良 7.0 [SFマガジン 昭和42年8月]幽霊タレントがおかしく登場、そして悲しい結末へ。後年の半村なら、もう少しペーソスを漂わせて書けたろう。
蝋いろの顔 都筑道夫 5.0 [別冊小説宝石盛夏号 昭和49年]スタンドに取り付いた幽霊の話だが、ご都合主義である。
月曜日の朝やってくる 赤江瀑 5.5 [小説新潮 昭和51年12月]幻の路面電車と近親者の死。その関連性に説得力がない。
死の家の挿話 草野唯雄 7.5 [別冊小説宝石盛夏号 昭和49年]家に取り付いた怨霊に怯える女。ラストは見当はつくが、よく考えられている。
死霊の島 西村京太郎 6.0 [別冊小説クラブ 昭和51年8月]疾走した妻を追って、男は出身地の孤島にやってくる。幻想譚に逃げられては面白くない。
白い外套の女 氷川瓏 5.0 [宝石 昭和23年12月]古臭いタイプの怪談にすぎない。
怪異の部屋 山村正夫 5.0 [小説宝石 昭和52年9月]これまた怪談のステレオタイプから一歩も出ていない。
登史草兵 6.0 [探偵実話 昭和27年10月]息子に執着する母から逃れた男は、疾走したつまを捜しに屋敷にやってくる。蝉と母の描写は中々のもの。
雪女 山田風太郎 6.5 [短編集『眼中の悪魔』に書き下ろし 昭和23年11月]画家夫妻にまつわる怪奇譚だが、合理的な解決をつけている。

先の「本格推理傑作集 死神のトリック」に次ぐ中島河太郎編アンソロジー。惹句は、『血も凍る戦慄の傑作』とのこと。
編者の中島河太郎は『はじめに』で、次のように述べています。

「怪談」は現代人の郷愁である。
文明の進展がどんなに急速化を加えても、未知の領域が征服され尽くそうとは思えない。巧緻な科学に瞠目する反面、神秘を憧憬し、暗合に戦慄する度合いはヘりそうにもな い。人智を絶した事象に畏怖の念を禁じ得ないのは、人類発祥以来、意識下に伝承されているからであろう。
ゴシック・ロマンに扱われた妖異が、一方では合理的解明を意図する推理小説の対象と なり、一方では浅薄な人智で推し測ろうとせぬ怪奇小説の素材となって、対照的な流れを形成した。本書でも怪奇の発端をとりながら、二通りの展開がうかがわれるのも、その過を反映している。

従来の怪談のように単なる怖がらせにとどまるのではなく、現代の怪談では、作品に何らかの合理性や意外性を加えることが必須事項なのでしょう。しかし、この作品集で最も高い評価をしたものが、発表年度が最も古い横溝正史だったことを考えると、「時代ではなく作家の力量がすべて」、結局そういうことなのかもしれません。

双葉社 昭和53年8月1日 初版発行 287ページ 680円