探偵小説年鑑(1950年版) ( 探偵作家クラブ編 )

今読んでも面白い作品が多く、充実の一年だった模様。


題名 作者 評点 コメント
詐欺師マータン 大下宇陀児 7.0 お伽噺的な雰囲気が良い。
涅槃雪 大坪砂男 7.5 戦死とされながら帰還した兄と、その妻を娶った弟の葛藤。皮肉な結末まで読ませる。
月ぞ悪魔 香山滋 7.5 日本代表ミステリー選集04 犯罪ショーへの招待で読了
老人と看護の娘 木々高太郎 5.0 老人を介護していた娘は殺人者なのか。説得力のない結末だった。
社会部長 島田一男 7.0 凄まじい速さで進むブンヤ物。新境地なのだろうが、これは映像のほうが良さそうだ。
道化役 城昌幸 4.0 何のオチもないつまらない話。
妖婦の宿 高木彬光 8.5 犯人の設定が全てなので再読には辛い。いささか煽り過ぎの感はあるが、傑作でしょう。
悪魔の夜宴 水谷準 5.0 辻褄を合わせただけの結末はちょっと説得力に欠ける。
黒い影 宮野叢子 5.0 交通事故で不具になった姉と無事だった妹。その葛藤を描いた作品だが、大時代的で古びてしまっている。
旅の獅子舞 山田風太郎 8.0 旅芸人一家をめぐる因縁話。独創的な舞台設定と巧みな文章に感心する。
車井戸は何故軋る 横溝正史 8.0 名家の悲劇を複数の視点で描く手法がうまい。救いのない結末には、すこし滅入るけど。
浴室殺人事件 渡辺啓助 6.0 少年が盗み撮りした写真から起きる殺人事件。平凡な出来。
  • 乱歩は序文で、前年度に比べ長編作品については「この年度の完結せる作品としては、横溝正史「女が見てみた」(時事新報) 宮野叢子「鯉沼家の悲劇」高木彬光「能面殺人事件」島田一男「婦鬼系圖」などにすぎず、前年度に比べて質、量ともにやや淋しかった。」と回願しています。
  • 一方で、「しかし、短篇乃至中篇に於ては、戰後作家群の活動めさましく、「寶石」第一期の出身者、香山、島田、山田、岩田の諸君、二十三年度の登場者、高木、大坪の兩君などに加ふるに、新らしくこの二十四年度に接頭した、三橋、宮野、椿、岡村、岡田の諸君、それと、初登場では ないが本間、氷川の兩者などが、轡を並べて夫々力作を發表し、又、年末には「寶石」百萬圓 懸賞の短篇候補作 「三十六人集」 が發行されるなど、 戰後作家群は、 その量と力と情熱に於て、戰前舊作家群を壓倒するの概があった。」と述べています。
  • 確かに、この巻に収められた作品は、70年を経た現在でも面白い作品が多く、充実の一年であったことがうかがえます。
  • 翌1950(昭和25)年からは、海外作品の翻訳が本格的に始まることもあって、戦後の探偵小説界は、一つのピークを迎えることになると言えるでしょう。

附録

下記が掲載されています。

  • 探偵小説界展望
  • 探偵作家住所録
  • 探偵小説関係雑誌名鑑
  • 日本探偵小説総目録 中島河太郎
    「明治以降昭和二十四年に至る迄の新聞雑誌所載の 探偵小説を中心として、怪奇・神秘・目的なもの も努めて韓録したが、捕物帳・軍事物・コント・少 年少女物は除外した。書卸し作品は著書目録に収めるべく之を省いた。」とのことで、ニ段組、八十ページにまとめています。

岩谷書店 昭和二十五年十一月十五日印刷 昭和二十五年十一月二十日発行 昭和二十六年六月十五日再版
定価三百五十円 483ページ