探偵小説年鑑(1954年版) ( 探偵作家クラブ編 )
低調だった昨年度(1953年度版)に比べると、作品のレベルは挙がっている。
題名 | 作者 | 評点 | コメント |
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畸形の天女(連作の一) | 江戸川乱歩 | 5.5 | 宝石推理小説傑作選2で読了済。 |
畸形の天女(連作の二) | 大下宇陀児 | 6.5 | 宝石推理小説傑作選2で読了済。 |
畸形の天女(連作の三) | 角田喜久雄 | 6.0 | 宝石推理小説傑作選2で読了済。 |
畸形の天女(連作の四) | 木々高太郎 | 5.0 | 宝石推理小説傑作選2で読了済。 |
胡蝶の行方 | 大坪砂男 | 7.0 | ブラウン神父物の贋作。大坪の作風と妙にマッチしている。 |
ネンゴ・ネンゴ | 香山滋 | 6.5 | 日本代表ミステリー選集08 殺意を秘めた天使で読了済。 |
生霊 | 島田一男 | 6.5 | 相変わらず達者な筆調で面白く読ませる。 |
ユラリウム | 城昌幸 | 4.0 | ポー詩を翻案しただけらしい。 |
無名の手紙 | 高木彬光 | 7.0 | 妻の不倫を知らせる手紙に悩む男。続けて送られてくる手紙の意図は何か。ちょっとしたひねりが面白い。 |
睡蓮夫人 | 氷川瓏 | 7.0 | 謎の女に導かれるように廃屋に入り込んだ男は..。睡蓮のイメージが印象的だ。 |
まがまがしい心 | 水谷準 | 6.0 | 謎の彫刻物を送りつけられた詩人。結末は今ひとつ。 |
赤い靴 | 山田風太郎 | 8.5 | 日本代表ミステリー選集05 殺しの方法教えますで読了済。 |
雪崩 | 鷲尾三郎 | 4.0 | 叔母夫婦の家屋目当てに殺人を企む男女。何のひねりもなく、つまらないクライムストーリー。 |
美しい青春 | 渡辺啓助 | 5.0 | 見知らぬ女性の家に招かれた男は、間男のような目にあうはめに。結末は予想通り。 |
稲穂の簪 | 黒沼健 | 4.0 | [ラジオドラマNHK「犯人は誰だ」]一応犯人当てらしいが、何の伏線もないうえ突然終わってしまうとは。 |
虫籠 | 永瀬三吉 | 5.5 | [ラジオドラマNHK「素人ラジオ探偵局」]設定も謎解きも平凡。 |
古い手紙 | 香住春吾 | 7.5 | [ラジオドラマ大阪中央放送局「ラジオドラマ作品」]新居に毎日訪れる女の正体は..。ラストは思わずニヤリ。さすがに放送作家は手慣れている。 |
- 序文は昨年に続いて大下宇陀児。
『今年の年鑑は、昨年のに較べて、きつと評判がいいだろう。』とまず自信を覗かせたうえで、年鑑の収録作品について語っています。
『昨年は探偵作家の仕事として、二三の変つた試みがあつたのだからそういう試みの代表的なものを、収録すべきだという説が出て、これも全員賛成したのである。
変った試み、というのは、三つあつた。
その一つは、連作である。
連作は、前にもいくどかあつたことだけれど、去年の下半期はど、これが盛んに行なわれたことはないだろう。しかも、「畸形の天女」は、今までにあった連作のうちで、最も成功したものだともいえる。その意味でこの作品の収録は、異議なく決定したのであつた。
次の変つた試みは、「宝石」でやった「模倣作品」だつた。
ドイルを、チェスタトンを、ポウを、作中人物から雰囲気まで、全部そのままに模倣するという、悪い言葉だったら「贋作」をやってみたのである。
やってみると、みんなが実に上手だつたのには呆れてしまった。どうも「贋作」では、その価値判断に困難な点があるけれども、出来上つた作品の面白さは、たしかに一読の価値があるもので、従つて、多少の論議はあつたけれど、それも二篇だけ加えることにしたのであった。
第三の変つた試みは、これも昨年に始まつたことでなく、前からやっているのだけれど、ラ ジオへ提供した作品である。
そのことを、折にふれて私は述べてきているが、「活字による文学」以外に「音による文学」 を、もう絶対軽視してはいけない時代になってきている。
探偵作家も、かなり多くの作品を提供しているが、不幸にして放送された作品は、その時限りで忘れられてしまうのが多い。それを活字にしてみると、放送とは少しく違つた味のものにはなるけれど、とにかく、残すのにはその形よりほかにないから、年鑑には、そういうものを三篇だけ入れることにしたのであつた。』 - 「贋作」というのは、宝石28年12月号に載った作品で、アラン・ポオ「ユラニウム」城昌幸、コナン・ドイル「黄色い下宿人」山田風太郎、ルブラン「ルパン就縛」島田一男、チェスタトン「胡蝶の行方」大坪砂男、ヴァン・ダイン「クレタ島の花嫁」高木彬光の5作品のことです。この中では、山田風太郎の「黄色い下宿人」が出色の出来と思いますが、同年に「赤い靴」があるわけで、こちらを採るのは当然でしょう。
- ラジオドラマについて、付録の『探偵小説界展望』の中で、NHKの「犯人は誰だ」が百回記念の公開録音を行ったという記述があります。この時代はまだラジオの全盛時代。大下は「二十の扉」で名が知られていた頃でしょう。
- 作品を読んでいると、この頃から住宅難が深刻化してきていることがわかります。香住春吾のラジオドラマでは、なんと敷金10万円という数字が出ていました。昭和28年の10万円は、今なら100万を超える金額ではないでしょうか。
附録
下記が掲載されています。
- 探偵小説界展望 渡辺剣次
- 探偵作家住所録
- 世界探偵小説年表 中島河太郎
岩谷書店 昭和二十九年八月五日印刷 昭和二十九年八月十日発行
定価 三百七十円 520ページ