探偵小説年鑑(1955年版 上巻) ( 探偵作家クラブ編 )

年鑑に値するとは思えない作品が散見、いささかウンザリの一巻でした。


題名 作者 評点 コメント
僕はちんころ 朝山蜻一 4.0 この作家の作品は、どれも暗く陰気でつまらない。なんで年鑑に載るのだろうか。
殺意 井上靖 3.0 何なんだ、この作品。これまた、なんで年鑑に載るのだろうか。
凶器 江戸川乱歩 6.5 還暦記念に書いた作品だろうが、明智は出てくるし、中盤の問題などなかなか盛りだくさん。
私は殺される 大下宇陀児 5.0 代議士の妻の巡らせた計略は自らに跳ね返ってくるというだけの話。長い割に展開がない。
外套 大坪砂男 3.0 なんとも面白みのない暗い話。大坪も落ちたな。
蔵を開く 香住春吾 8.0 [宝石 昭和29年7月]現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜で読了済。
狂った人々 香山滋 2.0 本当に何なんだ、こんなひどい作品ばかり読まされる身になってほしい。
タンポポの生えた土蔵 木々高太郎 5.0 日系一世の一家は戦場で息子を助けた日本兵の行方を探す。悪い出来ではないが、ミステリ色は全くない。
追いつめる 楠田匡介 6.0 大金を携帯して逃亡する男に接近するものの正体は。なかなか読ませるが、ラストがあっけない。
心霊殺人事件 坂口安吾 7.0 [別冊小説新潮 二十九年十月]日本代表ミステリー選集03 殺しこそわが人生で読了済。
  • 序文は木々高太郎が書いています。非常に短いもので、年鑑の出版時期について述べているだけで、記すべきものはありません。
  • 附録掲載の渡辺剣次「探偵小説界展望」によると、

一九五四年に完結した長篇(原稿用紙にして三百枚以上)を各誌から拾ってみると次の七篇である。
大下宇陀児氏の『邪悪な日』(探偵倶楽部)
横溝正史氏の『幽霊男』(講談倶楽部)
島田一男氏の『昼なき男』(探偵倶楽部)
『妖精の指』(宝石)
三橋一夫氏の『魔の刻』(書下し単行本)
橘外男氏の『陰獣』(探偵実話)
岡村雄輔氏の『幻女殺人事件』(宝石)

とあります。長編は7篇、描き下ろしは三橋一夫のみ。戦前以上に発表の場が限られていることがわかります。結局、探偵作家で長編を書けるのは、横溝、島田、(今年は出ていませんが)高木彬光あたりまでということなのでしょう。昭和二十年代後半はミステリ暗黒時代だと思います。


附録

下記が掲載されています。

  • 探偵小説界展望 渡辺剣次
  • 探偵作家住所録
  • 昭和二十九年度作品目録 中島河太郎

岩谷書店 昭和三十年七月五日印刷 昭和三十年七月十日発行
定価 二百八十円 412ページ