新青年傑作選3 恐怖・ユーモア小説編 ( 監修松本清張 横溝正史 水谷準●責任編集中島河太郎 )

玉石混淆。光る作品もあれば、どうしようもない作品もあり、レベル差の大きい一巻でした。


題名 作者 評点 コメント
浮かれている「隼」 久山秀子 6.5 [大正14年4月]後味の良い小品。
監獄部屋 羽志主水 8.5 [大正15年3月]前半で描かれるタコ部屋の悲惨さと、ラストの捻りが見事。
オベタイ・ブルブル事件 徳川夢声 3.0 [昭和2年4月]くだらん。
柘榴病 瀬下耽 7.0 [昭和2年10月]爬虫館事件 新青年傑作選で読了済
陰獣 江戸川乱歩 7.0 [昭和3年8月増刊]新青年傑作選集2 推理編2 モダン殺人倶楽部で読了済
死後の恋 夢野久作 7.5 [昭和3年10月]エキゾチズム溢れる舞台と語り口に惹きつけられる。
胡桃園の蒼白き番人 水谷準 7.5 [昭和5年2月]世捨て人の不思議な愛情とその結末。作品全体を包むムードが良い。
焦げた聖書 甲賀三郎 5.5 [昭和6年8月増刊]あまりに都合よく進む展開には、いささか閉口する。
影に聴く瞳 葛山二郎 3.0 [昭和6年8月増刊]わけのわからない構成とひとりよがりの展開で、読み通すのに苦労した。
人を喰った機関車 岩藤雪夫 3.0 [昭和6年10月]何だこれは。時代遅れの左翼プロパガンダか。
義眼 大下宇陀児 4.0 [昭和9年9月]つまらない話。なんでこんな作品が選ばれたのだろう。
呑気族 獅子文六 4.0 [昭和10年10月]古臭いユーモア物ほどつまらんものはない。
想像 城昌幸 4.0 [昭和11年4月]つまらんコントか。
海蛇 西尾正 5.0 [昭和11年4月]出来の悪いクトゥルー神話風の話。
文学少女 木々高太郎 8.0 [昭和11年10月]戦前の木々の作品は斬新で新鮮な作品が多い。この作品も、主人公の一生が胸を打つ。
決闘記 渡辺啓助 6.0 [昭和12年5月]貧弱の男の復讐談。
逗子物語 橘外男 8.0 [昭和12年8月]爬虫館事件 新青年傑作選で読了済
鬼啾 角田喜久雄 5.0 [昭和12年9月]後味の良くない残虐話。
孔雀屏風 横溝正史 8.0 [昭和15年2月]屏風を巡る怪談と、宝探しなど盛りだくさんの趣向で読ませる。横溝には、これを発端にした伝奇長編を書いてほしかった。
亡霊の言葉 火野葦平 3.0 [昭和24年11月]何というつまらない話。
  • これで立風書房の「新青年傑作選」は読了。第5巻は「読物・資料編」なので、対象としません。
  • 全体を通じて感じることは、作品のレベル差が思ったより大きいということです。時代を越えて読ませる作品も少なくありませんが、一方で現代の眼から見ると、読むに耐えないような作品も散見されます。
  • この巻は、特にその感が強い。中盤はひどい作品が多く、正直言っていささかうんざりしました。 一方で、「監獄部屋」のように、大正時代の作品なのに、今でも輝く作品があることには驚かされます。
  • その分岐点は、作者が独自の世界を作り出しているかどうか、いささか抽象的ですが、そこにあるような気がします。一つの世界をうまく形成できている作品は、時代を越えた寿命を持つということでしょう。
  • 逆に、舞台背景を流行や風俗に依存していたり、やたら刺激的な設定を試みても、それはすぐ風化してしまいます。大下宇陀児の作品がつまらないのも、そんなところに理由があるのでしょう。新青年とは関係ありませんが、戦後の社会派二番煎じ的な作品や、似非ハードボイルド風の作品も同様で、その手の作品の賞味期限は極めて短い、そういうことですね。

昭和45年2月10日第二刷発行 全413ページ 920円。