「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10 ( ミステリー文学資料館編 )

従来のアンソロジーとの重複を避けたセレクションは好感が持てるが、残念ながら残り物に福は少なかった。


題名 作者 評点 コメント
偽刑事 川田功 3.0 [大正15年02月]結末がよくわからない。
遺書 持田敏 7.0 [大正15年05月]知らない作家だが、ビーストンばりの展開でなかなか読ませる。
犠牲者 平林初之輔 4.0 [大正15年05月]結局、何もなかったというつまらない話。
印象 小酒井不木 4.0 [大正15年06月]古臭い復讐談。
越後獅子 羽志主水 5.0 [大正15年12月]これは落語なのか。
瀬下耽 5.5 [昭和2年8月]登山中の殺人という設定は悪くないが、結末は平凡。
凍るアラベスク 妹尾韶夫 5.0 [昭和2年1月]猟奇殺人といったところだろうが、後味が悪いだけだ。
正義 浜尾四郎 5.0 [昭和5年4月]妙に重苦しいが、結末がミエミエの展開である。
第三の証拠 戸田巽 6.0 [昭和6年4月]皮肉な展開はなかなか面白い。
勝伸枝 6.0 [昭和6年7月]自らに嘘を信じさせる能力を持つと信じている女の話。悪い出来ではないが、オチが今ひとつ。
氷を砕く 延原謙 4.0 [昭和7年6月]不倫をめぐるつまらない話。
地獄に結ぶ恋 渡辺文子 7.0 [昭和7年9月]全く知らない作家だが、この作品はちょっとひねりのある構成で読ませる。
三稜鏡(笠松博士の奇怪な外科医術) 佐左木俊郎 3.0 [昭和7年11月]長いだけで脈略のない怪奇談。
豚児廃業 乾信一郎 7.5 [昭和8年10月]豚道楽の叔父と頼りない甥の話だが、楽しいユーモア物に仕上がっている。
寝台 赤沼三郎 5.0 [昭和13年4月]毒殺されかけている男の復讐話。
三人の日記 竹村猛児 8.0 [昭和15年5月]前半の薬剤師の視点が効いていて、その後の意外な展開と後味の良いラストに感心。
燻製シラノ 守友恒 5.0 [昭和15年5月]筋の取りにくい表現もあって、スッキリしない。
  • 「幻の探偵雑誌」全10巻の最終巻。裏表紙に『本書では、これまでの「新青年」アンソロジーに未収録の作品、このシリーズに登場していない作家の佳作を収録した。』とあります。
  • 重複を避けているため、知らない作家、作品が読めるのは幸いですが、それが質に結びつくかどうかは疑わしいところでしょう。いささか、読むのが苦痛になる作品も散見しており、「新青年傑作選」もここまで来ると、「あまり出来の良い話は残っていないなあ」というのが正直な感想です。
  • この巻では、竹村猛児の「三人の日記」という作品が中盤からの展開が面白く感心しました。ミステリーではありませんが、視点を工夫していて、センスを感じさせる作家だと思います。
  • 巻末に、山前譲氏による『「新青年」作者別作品リスト』が掲載されており、資料としてはもちろんですが、少し眺めているだけでも興味深いものがあります。
  • これで、手持ちの「新青年傑作選」は全冊読了。次回に全体を少しまとめてみようと思います。

2002年2月20日 初版1刷発行 800円