本格推理傑作集 死神のトリック ( 中島河太郎編 )

「本格推理」といえない作品もありますが、佳作揃いの作品集。楽しく読めました。


題名 作者 評点 コメント
科学的管理法殺人事件 森村誠一 4.0 [昭和45年1月 小説現代]謎にも人物にも何の魅力もない。この作家はどれもこんなレベルだ。
早春に死す 鮎川哲也 6.0 [昭和33年2月 宝石]何の意外性もないアリバイトリックだけのミステリは好みでない。
懸賞小説 佐野洋 8.0 [昭和35年10月 サンデー毎日特別号]名前を貸した小説が懸賞に当選した男に実際の事件の嫌疑がかかる。ラストのオチが面白い。意外性こそ短篇ミステリの評価ポイントである。
幽霊と月夜 仁木悦子 7.0 [昭和42年9月 推理界]別荘に集まった一族に起こる連続殺人。少し盛り込みすぎて展開が慌ただしい。長編化すべきだった。
不安な証言 笹沢左保 7.0 [昭和37年2月 オール読物]離婚した夫の愛人が被告となった裁判で、アリバイ証言をすることになった女はある事実に気づく。流石に笹沢はうまい。
渋柿事件 島田一男 5.0 [昭和34年11月 サンデー毎日特別号]ちょっとした密室を扱っているが、必然性に乏しい。島田にしては平凡な出来。
秘境殺人事件 石沢英太郎 7.0 [昭和46年11月 小説現代]作者の初期短篇はどれも面白い。ただ、この作品のアリバイトリックは説得力に欠ける。
木箱 愛川純太郎 5.0 [昭和26年12月 別冊宝石]ミステリーの愉しみで読了済。

冒頭の「はじめに」で編者中島河太郎は、

近年の謎解き小説は長編に主流が移って、短編に仕立てる作家が激減した。短い枚数で読者を驚かせ、楽しませてこそ、推理作家としてもっとも腕の揮い甲斐がありそうに思えるのだが、それがいちじるしく困難になったと見える。そのため近年はこの種の作品に限って、中編化の傾向が目立ってきた。 本書に収めた中短編は、その至難な形式にあえて挑戦された貴重な作品である。

としています。
本格推理傑作集」というタイトルから外れた作品も散見しますが、一定以上のレベルを保っており、編者中島河太郎の選択眼に感心します。全体のセレクションから見ると、巻頭の森村誠一の作品が異質ですが、これは当時の人気作家を入れるという営業政策なのでしょう。

このアンソロジーに採られた作品の中では、佐野洋の「懸賞小説」の面白さが群を抜いています。個人的に、短篇ミステリは「設定の面白さとラストの意外性」、この2つを兼ね揃えていないといけないと思うのですが、この作品などは、よく出来た例として挙げられると思います。
仁木悦子の「幽霊と月夜」も悪くありませんが、この長さでまとめるには、あまりに詰め込み過ぎの感があります。もう少し書き込んで長編として出されるべき作品でした。

巻末には、編者による「解説」があります。

双葉社 昭和53年6月10日 初版発行 267ページ 660円