殺人列車は走る トラベル・ミステリー4 ( 鮎川哲也編 )

中町信が目立った一巻。読むに耐えぬ作品もあってげんなり。


題名 作者 評点 コメント
木魂 夢野久作 3.0 [ぷろふいる 昭和9年5月]妻子に先立たれた男の繰り言が長々と続くだけで退屈。
執念 蒼井雄 5.0 [月刊探偵 昭和11年11月]山中で発見された死体にまつわる怪談めいた話。
桃色の食欲 渡辺啓助 6.0 探偵小説年鑑で読了済。
碑文谷事件 鮎川哲也 5.0 [探偵実話 昭和30年12月]こんな面倒なトリックの一部でもバレたら犯人と白状したも同然。必然性に乏しい。
復讐墓参 安永一郎 6.5 [宝石増刊 昭和33年12月]運賃計算ネタは面白いのだが、殺人の動機としては説得力がない。
偽りの群像 中町信 7.5 [推理ストーリー 昭和42年11月]競争の激しい教科書業界を舞台にしたアリバイ崩し物。中盤までの展開も良くできている。
映画狂の詩 おかだえみこ 2.0 [『復讐墓参』(鮎川哲也編)徳間ノベルス 昭和52年9月]なんだこれ。独りよがりでわけのわからない話を読まされる身になってほしい。

第4巻の売りは鮎川と中町のアリバイ崩しもの2作でしょうが、これは明らかに中町に軍配が上がりました。
鮎川の「碑文谷事件」におけるアリバイ工作は、去年の写真による偽装や地名で時間を錯覚させるトリックなどお粗末至極。これはすぐバレてしまうし、そうなると自分が犯人と言っているも同然。中盤からそんな間抜けな偽装工作を長々と説明されても鬱陶しい限りです。
一方、中町の「偽りの群像」は、犯人が判明するまでの展開がなめらかで、そのアリバイが崩れていく経過も良くできていると思います。

冒頭の夢野久作はダラダラした展開で退屈、巻末の「映画狂の詩」はとても活字にできる内容ではありませんでした。「初め悪ければ、終わり最悪」という感を強くしたのは遺憾でしたね。


徳間文庫 1983年5月15日初刷 283ページ 360円