犯人当て傑作選 競作シリーズ2 ( 中島河太郎編 )

犯人当てと言えども、作者の筆力に負うところが多いことを痛感する一巻でした。


題名 作者 評点 コメント
赤のある死角 笹沢左保 8.0 [別冊小説宝石 昭和42年8、9月]殺人予告を受け取った夫婦は、関係者を一箇所に招集するのだが..。動機が今ひとつ説得力に乏しいが、悪くない出来。
空ろな果実 大谷羊太郎 5.0 [小説宝石 昭和46年11、12月]作者得意の芸能ものだが、いささか味気ない結末。
冬宿 草野唯雄 5.0 [宝石 昭和38年1、3月]貧乏くさい人物揃いでは、ストーリーも盛り上がらない。
真説・赤城山 天藤真 7.0 [推理界 昭和43年4、5月]忠治一家内で起こる殺人事件という題材が面白い。このあたりの人物像に詳しければ、さらに興味が増したかもしれない。
三月が招いた死 幾瀬勝彬 5.0 [小説クラブ 昭和48年4月]アパートの隣人の口臭を気にする薬剤師が自殺偽装を解く。犯人当てには弱い。
混血美女船員 川辺豊三 4.0 [推理界 昭和42年12月、43年1月]面白そうな題材なのに、ラストが腰砕け。
ねじれた鎖 山村正夫 5.0 [宝石 昭和36年1、2月]これは、とても犯人あてのテキストになるものではない。展開に論理性もなく思いつきだけである。
お話中殺人事件 夏樹静子 7.0 [別冊小説宝石 昭和47年6月]意外性はないものの、よく考えられた筋書きで読ませる。
  • 犯人あてのアンソロジーとしては、先に「死角 読者への挑戦 傑作集(高木彬光他、中島河太郎選・解説)」を紹介しました。そこで収録された作品は、探偵作家クラブの新年会で朗読されたものでしたが、今回は昭和30年後半から40年代半ばに雑誌に発表されたものの集成です。
  • 最初の作品、「赤のある死角」(笹沢左保)の出来が良かったので、後続を期待したのですが、今一つの作品が多かったのは残念でした。結局、犯人当て小説といっても、「小説としてしっかりしていないと面白くない」という当たり前の事実を確認した結果となりました。笹沢以外では、天藤真、夏樹静子という作家の評価が高くなるのも、極めて当然の帰結と言えるでしょう。
  • 編者の中島河太郎は、序文にて「知的闘争を楽しむ」と煽っていますが、残念ながらそのレベルの作品はほとんどありません。昭和50年代に「新本格」が台頭してくる前の昭和40年代は、本格物暗黒時代だったわけですから、編者も作品の選択には苦労したことでしょう。

産報 昭和48年9月25日 第1刷発行 310ページ 490円