犯罪交差点 トラベル・ミステリー2 ( 鮎川哲也編 )

バラエティに飛んだセレクションで楽しく読めました。


題名 作者 評点 コメント
急行しろやま 中町信 7.0 [推理ストーリー 昭和44年8月]ストレートなアリバイ崩しだが、スムーズな展開と動機が面白い。
歪んだ直線 麓昌平 5.0 [推理界 昭和44年8月]これもアリバイ崩しだが、トリックは陳腐、ストーリー展開はぐずついて読みずらい。
殺意の証言 二条節夫 7.5 [推理界 昭和44年9月]二重構成の設定は面白かったが、後半がくどすぎる。ラストをスッキリさせたら秀作なのに。惜しい。
急行十三時間 甲賀三郎 7.0 [新青年 大正15年10月]大金を大阪まで持ってくことになった青年と同じボックスに乗り合わせた3人の男。古さを感じさせない出来。
江戸川乱歩 6.5 [キング 昭和6年11月]乱歩にしては素人くさい小説だが、意外なラストまで読ませる。
轢死経験者 永瀬三吾 6.0 [探偵倶楽部 昭和27年11月]轢死をネタに賭けをする男。小品ながら悪くない。

鮎川哲也編集による「徳間文庫版鉄道アンソロジー」の第2巻。最初の3篇は、昭和40年代の推理雑誌に掲載された作品で構成されおり、ページ数で全体の2/3を占めています。
中町信の「急行しろやま」は双葉社「推理ストーリー」に掲載されたもの。この雑誌は現在の「小説推理」の前身で、1961(昭和36)年創刊と言いますから、何と60年以上続いていることになります。現在の「小説推理」は通常の小説雑誌と同様の版型ですが、「推理ストーリー」は大型の形状だった記憶があります。今回とは全く関係のない話ですが、わたしはこの雑誌で仁木悦子の三影潤物「夏の終わる日」を読んだことが妙に記憶に残っています。
中町信はその後の長編「新人賞殺人事件」など、ラストの意外性に富んだ展開でミステリファンを楽しませてくれた作家ですが、「急行しろやま」は初期の中編。ストレートのアリバイ崩しで、中盤で明らかになる動機が面白い。ただ、何のひねりもないのは残念なところ。
中町に続く麓昌平「歪んだ直線」、二条節夫「殺意の証言」は浪速書房の雑誌「推理界」に掲載されたもの。創刊は1967(昭和42)年、編集は初期が中島河太郎、中途から井口泰子が担当していたと思います。この雑誌から、都筑道夫の「なめくじ長屋」シリーズが始まったというのが歴史的意義といったところかな。
この2作品では、二条節夫の「殺意の証言」がよく出来ています。前半の絞殺への誘惑を断つため自ら親指を切り捨ててしまう男の話など、それだけでも面白いのですが、それが実は作中の創作で、現実の殺人と絡んでいく展開に感心しました。ところが、後半に明らかにされる陳腐な毒殺トリックをめぐる話の展開があまりにくどく、前半の緊張感をスポイルしてしまいました。ここをスッキリまとめていたら、より印象に残る作品になったのに、と残念に思います。


徳間文庫 1983年3月15日初刷 284ページ 340円