硝子の家 本格推理マガジン ( 鮎川哲也編 )

トリック小説三編。いずれの作品も文章は味気なく、小説としての面白さに欠ける。


題名 作者 評点 コメント
硝子の家 島久平 6.0 第一の密室トリックは面白いがそれだけ。そっけない文章では盛り上がらない。
離れた家 山沢晴雄 2.0 典型的なひとりよがり小説。人に読ませる作品ではなかろう。
鬼面の犯罪 天城一 4.0 何のひねりもなく終わってしまい尻すぼみ。

 鮎川哲也を編集長としていた光文社文庫「本格推理」の一冊。巻頭の「はしがき」には、『今回は「本格推理」シリーズの特別編として、推理小説ファンには堪えられない幻の名作集をお届けします』とあります。前回紹介した鯉沼家の悲劇の前に発刊されていた一冊です。

 島久平の「硝子の家」は、宝石百万円懸賞の300枚以上の長編部門に応募された作品。出版元である岩谷書店の経営悪化による賞金未払いが問題になった一件ですね。この作品は、一等 遠藤桂子「渦潮」、二等 中川透「ペトロフ事件」に続き、三等に入選しています。
読んでみるとわかりますが、典型的なトリック小説です。作中では3つのトリックが扱われていますが、メインである「密室トリック」はなかなか面白く、よく考えられています。ただ、いかんせん作者の文章力が今ひとつなので、小説として味気ない出来となってしまったのが残念です。

 残りの二作品も同様。
山沢晴雄の「離れた家」は、鮎川哲也の解説によると『元来、山沢氏の作品は凝りに凝った作風のものが多く、難解に過ぎるとの批判を受けることが少なくなかった。』とあります。覚悟して読みましたが、これは「難解」と言うより「ひとりよがり」。こんな作品を読まされる読者は、たまったものではありません。
 天城一「鬼面の犯罪」は摩耶正物の一編。残念ながら、謎も論理展開にもキレがない作品でした。天城は「不思議の国の犯罪」と「高天原の犯罪」二編を読んでおけば十分でしょう。


光文社文庫 1997年3月20日 初版1刷発行 440ページ 680円