見えない機関車 鉄道ミステリー傑作選 ( 鮎川哲也編 )
低調な作品ばかりで盛り上がらず。無理やり集めた鉄道アンソロジー、その感が拭えません。
題名 | 作者 | 評点 | コメント |
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指環 | 江戸川乱歩 | 5.0 | [新青年 大正14年7月]対話形式のショートショート。他愛ない結末である。 |
汽車の切符 | 小酒井不木 | 4.0 | [記載なし]古臭い話。 |
汽笛 | 佐左木俊郎 | 3.0 | [記載なし]陰気で辛気臭く読むに耐えない。 |
急行列車の花嫁 | 海野十三 | 5.0 | [講談雑誌 昭和11年1月]荒唐無稽の通俗活劇だが、ここまでやれば潔い。 |
蒸気機関車殺人事件 | 海野詳二 | 4.0 | [運輸日報 昭和21年1月]途中でSLの講義を聞かされたうえ、よくわからない結末。なんとも素人くさい小説。 |
機関車は偽らず | 島田一男 | 6.0 | [キング別冊 昭和30年10月]妊娠した女の死体が発見され、容疑者は三人の男に絞られる。アリバイトリックは今ひとつ。 |
見えない機関車 | 鮎川哲也 | 6.0 | [宝石 昭和33年10月]意外性のないアリバイトリックは、あまり評価できない。 |
夜汽車の人々 | 藤木靖子 | 6.5 | [エロチック・ミステリー 昭和37年8月]思わず笑ってしまう結末が楽しい。 |
森林鉄道みやま号 | 井口泰子 | 6.0 | [小説サンデー毎日 昭和47年9月]舞台は面白いのだが、ストーリーは陳腐。 |
最終列車 | 川辺豊三 | 5.0 | [推理 昭和47年12月]ただ犯行をなぞっただけで、何のヒネリもない展開。 |
大衆と暴力者 | 大西赤人 | 4.0 | [朝日ジャーナル 昭和48年2月]何という幼稚な小説。 |
グリーン車の子供 | 戸板康二 | 7.5 | [小説宝石 昭和50年10月]中村雅楽物。ちょっとした意外性と後味の良さはさすが。 |
山手線殺人事件 | 夏樹静子 | 6.0 | [週刊小説 昭和50年12月]これは平凡な展開。 |
幻の指定席 | 山村美紗 | 5.0 | [小説宝石 昭和51年6月]そもそも倒叙物は面白くないし、トリックも思いつきレベル。 |
みえない電車 | 小林久三 | 6.0 | [小説推理 昭和51年7月]刑事が殺した女は息を吹き返したらしい。容疑者のアリバイを崩し、罪の転嫁を図るが。 |
汽笛が響く | 南部樹未子 | 7.0 | [書き下ろし]息子夫婦に虐げられる老婆の殺意。意外性やオチはなにもないが、うまく書かれている。 |
「下りはつかり」、「急行出雲」に続く鮎川哲也編集の鉄道アンソロジー第3弾。編者の鮎川は序文で、
第一巻にあたる『下り"はつかり”』を編んだ とき、その緒言において編者は「わが国の鉄道ミステリーはせいぜい五○編しかない」と大見得を切った。切ったのはいいが、その後になって鉄道短編が出てくるわ出てくるわ。大上段 に振りかぶったダンビラの始末に困って編者あわてざるを得なかった。しかし これはうれしい狼狽でもあったのである。 『下り"はつかり』』『急行出雲』とつづいたこのシリーズは、本巻をもって締めくくりにするけれど、右にのべたとおり、タネ切れどころか、収録作品はどれも上々の物ばかりとなった。わたしがこうしたことを書くと、仲間からお前は楽天家だとみえて自慢ばかりしているといわれるが、事実をのべているのだから仕方がない。
と、それこそ大見得を切っていますが、残念ながらその内容はお寒い限り。前半の戦前物は読むに耐えないものがほとんどですし、中盤からの戦後の作品も、見るべきものは戸板康二「グリーン車の子供」、南部樹未子「汽笛が響く」の二篇にすぎませんから、そのレベルには何とも言いようがありません。
光文社カッパノベルズ 昭和51年11月20日初版発行 320ページ 650円