金田一耕助の帰還 ( 横溝正史 )

その後改変された作品の集成ゆえ、いささかまとまりが悪いのも致し方なしか。


題名 作者 評点 コメント
毒の矢 横溝正史 6.0 [オール読物 昭和31年1月]中傷レターに振り回されている街での殺人。犯人のトリックに必然性が乏しい。
トランプ台上の首 横溝正史 7.0 [オール読物 昭和32年1月]ストリッパーの首なし死体が発見され、そのパトロンも殺されていることが判明。ラストはいささか強引だが、スムーズなストーリー展開で一気に読ませる。
貸しボート十三号 横溝正史 4.0 [別冊週刊朝日 昭和32年8月]これは中途半端な作品。急に話を打ち切って真相を暴露してしまった。
支那扇の女 横溝正史 5.0 [太陽 昭和32年12月]これも後半の展開が急すぎる。
壺の中の女 横溝正史 7.0 [週刊東京 昭和32年9月21日号〜9月28日号]壺の中に入る芸を持つ女にまつわる殺人事件。短い中にひねりを入れてうまくまとめている。
渦の中の女 横溝正史 6.0 [週刊東京 昭和32年11月2日号〜11月9日号]これまた中傷レターにまつわる殺人事件。悪い出来ではないが、少しごたついている。
扉の中の女 横溝正史 5.0 [週刊東京 昭和32年129月14日号〜12月28日号]盛り上がりのない展開で、ラストも面白くない。
迷路荘の怪人 横溝正史 7.5 [オール読物 昭和31年8月]舞台、人物設定、筋書きと三拍子揃った佳作。

久しぶりに「横溝正史を読んでみたい」と取り出した短編集がこれ。とりあえず、「確実に未読なもの」をと思ったのですが、この本は少なからずニッチな作品集なのです。帯には下記のようにあります。

横溝正史には改稿癖があり、しばしば一度発表した作品に手を加えて、全く別の作品に仕立て直している。金田一耕助シリーズも例外ではなく、短篇として発表しておきながら、後に中・長編化した作品は 十数編に及ぶ。今回お届けする『金田一耕助の帰還』『金田一耕助の新冒険」の二冊は、著者の生前、ほとんど単行本に収録されなかった原形版の短篇を初めて集大成した、金田一耕助・幻の事件簿である! 『帰還』には、名作「貸しボート十三号」の他、シリーズ後期の傑作 「迷路荘の惨劇」の短篇版「迷路荘の怪人等、全8篇を収録!

とりあえず読んで見ましたが、いささか後悔。序盤の展開はなかなか快調なのに、突然結末になってしまったり、明らかに書き込み不足というように、中途半端な出来に終わっている作品が少なくありません。松本清張がその昔、「雑誌連載はゲラ刷り」のような発言をしていた記憶がありますが、横溝も同様なのでしょう。やはり、完成版を読むに越したことはありません。

それでも、十分面白く読ませるのはさすが。この作品集の中では「迷路荘の怪人」が秀逸のできで、確かにこれは長編にするべきプロットでした。読み返してみましょう。

出版芸術社 平成八年五月二十五日 第一刷 254ページ 1600円