鮎川哲也と13の殺人列車 ( 鮎川哲也編 )
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色々な所から鉄道物をかき集めてくる熱意は買う。でも素人レベルの作品が多いのにはうんざり。
題名 | 作者 | 評点 | コメント |
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鉄道ミステリーという物の怪 | 鮎川哲也 | [彷書月刊1986年12月25日]随筆 | |
振り出し | 荻一之介 | 6.5 | [探偵文学 昭和11年7月]妊娠をネタに脅迫されたい学生は傘で女を線路に落としてしまう。オチはなかなか面白い。 |
探偵殺害事件 | 星田三平 | 4.0 | [新青年 昭和6年2月]古臭くゴタゴタした活劇。 |
陰影 | 伝・江戸川乱歩 | 2.0 | [婦人グラフ 大正15年6-8月]乱歩のバッタモン。とても読める話ではない。 |
急行<西海> | 天城一 | 3.0 | [書下ろし]つまらない数字パズル。 |
京都発“あさしお7号” | 山沢晴雄 | 3.0 | [書下ろし]退屈なアリバイ物。 |
西海号事件 | 種村直樹 | 6.0 | [密室 昭和31年1月]トリックは陳腐だが、構成と文章はしっかりしている。 |
浦和が嗤う | 沼島りう | 7.0 | [RIZARD 昭和57年5月]麻雀仲間がテレビ中継から犯罪を推理するというアイディアが良い。解決はいささかこじつけだけど。 |
巡査と踏切 | 江島伸吾 | 6.0 | [書下ろし]巡査が男のうちわけ話を聞くというスタイルは悪くないが、ラストは予想通りでひねりが足りなかった。 |
白い鳥を探せ | 相生彰 | 3.0 | [書下ろし]つまらない時刻表トリックにはうんざり。 |
男 | 北村昌史 | 4.0 | [蒼鴉城 年月記述なし]この手のオチは二番煎じだな。 |
雨美濃 | K・ヒロシ | 3.0 | [ショートショートランド 昭和56年4月創刊号]よくわからない。 |
夏の最終列車 | 津島誠司 | 6.5 | [書下ろし]大胆なトリックだが、説得力はない。 |
まだありました、「鮎川哲也の鉄道アンソロジー」。
しかし、その内容といえば、13篇中、書下ろし4篇、同人誌3篇と名前すら知らない作家が大半を占めています。良くぞこんな作品を探し出してきたものだ、とそのエネルギーには感心しますが、いかんせん作品のレベルはいかんともしがたく、読むに耐えない作品が多いことも否定できません。こんなアンソロジーを商業レベルで出版できた1980年後半は、バブルの時代、日本の景気も良かったのでしょう。
さて、作品についても少し言及しておきます。
まずは、種村直樹「西海号事件」。種村直樹といれば、自称レイルウェイ・ライター、数々の鉄道ルポを残した人なので、鉄道好きなら知らない人はいないでしょう。実は、わたしも70年代からのファン、彼の「鉄道旅行術」は、鉄道旅に目覚めた一冊、まさにバイブルでした。その後も種村直樹の書籍は目につくたびに購入しており、今でも書架の一角を占めております。
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「西海号事件」の殺人トリックは、ちょっとした思いつきレベルで大したものではありませんが、作中で語られる「列車プレート盗難」は彼自身の経験でもあり、その反省も執筆の動機だったのかもしれません。
もう一作面白かったのは、沼島りう「浦和が嗤う」。北海道大学推理小説同好会の機関紙に掲載された作品とのこと。少し強引のところもありますが、テレビの放送から事件を組み立てていく構成はなかなか面白い。
大学ミステリクラブのマニアの書いたパロディ物は楽しいものがあります。鮎川のアンソロジーの中では、「レールは囁く トラベル・ミステリー5」 の下条謙二「信濃平発13時42分」、「無人踏切」の三浦大「鮎川哲也を読んだ男」などがそうでした。
立風書房 1989年7月30日 初版1刷発行 266ページ 750円