鮎川哲也の密室探求 ( 鮎川哲也編 )

水準以上の作品揃いだが、傑出したものに乏しく今ひとつ物足りない。


題名 作者 評点 コメント
灯台鬼 大阪圭吉 6.5 [新青年 昭和十年十二月]奇怪な謎設定を短い枚数でうまくまとめている。作者のベストではないが、その手腕を窺わせる出来。
殺人演出 島田一男 6.0 [宝石 昭和二十一年十二月]達者な語り口で進むストーリーなのだが、密室物には違和感がありすぎる。
山荘殺人事件 左右田謙 7.0 [別冊宝石 昭和二十五年ニ月]雪の山荘の密室殺人事件。よく考えられているが、この長さでは十分に書き込めなかったろう。
盛装 藤村正太 7.0 [別冊宝石 昭和二十五年ニ月]確執が続く兄弟はついに決闘に及ぶが..。中盤までの展開は面白いが、結末が予想できてしまうのが残念。
草原の果て 豊田寿秋 6.5 [密室 昭和二十九年]北に駐留する日本軍を舞台に起きる殺人事件。少し捻りすぎていて、今ひとつスッキリしない。
悪魔の映像 渡辺剣次 4.0 [宝石 昭和三十一年三月]何の意外性もない、平板でつまらない話。
二粒の真珠 飛鳥高 7.5 [宝石 昭和三十三年一月]窮地に追い込まれた男が指摘する密室トリックは面白いし、飄々とした警察官が明かす犯行動機も意外性がある。
密室の妖光 太谷羊太郎(問題編)、鮎川哲也(解決編) 6.0 [別冊小説宝石 昭和四十七年三月]連作にしてはよくまとまっているが、前半の密室物が後半にはアリバイ崩しになるという展開に一貫性のなさを露呈している。
右腕山上空 泡坂妻夫 7.0 [幻影城 昭和五十一年五月]トリックも面白いが、話の進め方がうまいと思う。
朽木教授の幽霊 天城一 6.5 [書き下ろし]面白いトリックなのに、大時代的な設定がスポイルしている。
山沢晴雄 7.0 [幻影城 昭和五十ニ年七月]パズルのような小説だが、後味の良さに好感がもてる。
  • このアンソロジーは、渡辺剣次編の「13の密室」(昭和50年5月)、「続・13の密室」(昭和51年6月)に続いて出されたもの。編者は「はじめに」で、この二冊に触れ、「これ等は、長年にわたって培われた故人の推理小説鑑賞眼にかなった作品ばかりで、それだけに粒選りの秀作揃いであった。」としています。
  • また編者については、「本巻は渡辺剣次氏と親密な友人関係にあった松村良雄(外務省)、天城一(大阪教育大学)両氏の助言と協力を得て出来上がった。巻末の解説は三人がそれぞれの作品を分担して書いたものであり、正確に言えば共編であることをお断りしておく。」とのこと。
  • 上記のような状況から生まれた本書ですが、先行した二冊との作品重複を避けていることもあって、傑出した作品に乏しいことは否めません。 先に「13の密室」を読み直すべきだったかな。
  • それでも、本格短編、しかも密室物を読むのは楽しいですね。最近、社会派のつまらない風俗物や男女関係のいざこざばかりにうんざりしていることもあって、いい気分転換になりました。

講談社 第1刷発行 昭和52年10月28日 300ページ 980円


このアンソロジーは、その後講談社文庫に「密室探求(第一集)」として収録されました。
昭和58年8月15日 第1刷発行 531ページ 580円

表紙に特価本用の100円シールが貼ってありますね。剥がすのも面倒なので、そのままにしておきました(笑)。

なお、文庫化に当たって、藤村正太の「盛装」が「妻恋岬の密室事件」に差し替えになったうえ、加納一朗の作品が追加収録されています。こちらも読みましたので、寸評を載せておきます。

題名 作者 評点 コメント
妻恋岬の密室事件 藤村正太 6.0 [昭和三十年一月 宝石]時代を感じさせる展開。二十五年の「盛装」のほうがよほどモダンである。
箱の中の箱 加納一朗 5.0 [昭和四十六年十二月 推理ストーリイ]つまらないハウダニット。
  • 残念ながら、作品の入れ替えと追加は、質の向上に寄与していませんでしたね。