ドーヴァー1,2,3 ( ジョイス・ポーター )
ドーヴァー警部シリーズ 初期3作を読む
前回、ハヤカワ・ポケット・ミステリを分析してみましたが、このシリーズも積読になっているものが少なくありません。わたしの持っているポケミスは1980年以前の古いものばかりで恐縮ですが、その中で気になっている作品を少しずつ読んでいきたいと思います。
まず、初回はジョイス・ポーターの「ドーヴァー警部」シリーズを取り上げてみましょう。。
主人公のドーヴァー警部ですが、「ドーヴァー1」の裏表紙によれば、
『身長6フィート2インチの体格、110キロという脂肪の多い肉を出来あいの古びた服にくるみ、二重顎と猪首をその上にのっけていた。縮尺のちがったちんまりした鼻、口、眼が、ばかでかい面積の顔のなかで消え入りそうだった。』
とのこと。さらに性格は、『陰鬱で、神経質で、間が抜けていて、嫉妬深くて、そのうえ意地悪』というから、なんともいえない。「ミステリ史上最低の探偵」という肩書も肯けます。
さて、このシリーズ、続けて読んでみるとわかりますが、話の展開はどれも同じです。
- とある田舎町で、ちょっとした事件が発生。
- 手をこまねいた地元警察は、ロンドン警察へ要員派遣を依頼。
- ロンドン警察は、警視庁一の嫌われ者のウィルフレッド・ドーヴァー警部を「こやつを一時的でもいいから出て行かせたい」というような理由で派遣します。
- ドーヴァーは色々な理由を付けてサボりたがり、関係者への質問もほとんどイヤミばかり。
- なのに、事件は適当に動き出していく。
そんな感じです。でも、このパターンが面白い。
ドーヴァー1(1964) HPB967 川口正吉訳
処女作の舞台は、片田舎町クリードン。
ここで、100キロを越える肥満女性が失踪するという事件が起きる。とても色恋に縁のある人間とは思えないため、誘拐という線が浮かびあがる。
いやいやながら現地に出向いたドーヴァーは、部下のマクレガーに仕事を押し付けながら、不平たらたら捜査に挑むが...
序盤は今ひとつでしたが、中盤から話は盛り上ります。なんといってもこの作品、結末が素晴らしい。
ドーヴァー警部、まともに働くじゃないですか。まあ、最後はだいぶ外してますけど。
昭和42年1月25日印刷 昭和42年1月31日発行 256ページ 定価330円
ドーヴァー2(1965) HPB968 尾坂力訳
二作目の舞台は、カードリーという町。
ここで、女性が後頭部を撃たれるという事件が発生。意識不明の被害者は「眠れる美女」として報道されるが、その後死亡してしまう。州警察の要請に応え、ロンドンから派遣されたのは、ドーヴァー警部その人であった。
巷では「史上最低の探偵」などと言われていますが、いやいや、この作品のドーヴァーは名探偵でしょう。前作ほどの意外性はありませんが、楽しく読めます。
早川書房 昭和42年1月25日印刷 昭和42年1月31日発行 214ページ 定価290円
ドーヴァー3(1965) HPB982 小倉多加志訳
三作目の舞台は、ソーンウィッチという田舎町。
いま、この村では、わいせつ文書がところ選ばず送りつけられるという事件が続いていた。町の有力者 アリス夫人は警察署長に詰め寄っていたが、ついには自らのコネを使い、ロンドン警察に捜査員派遣を直接要請してしまったのである。
もちろん派遣されたのは、ドーヴァー警部。アリス夫人は、わいぜつ文書は自分を追い出す計略だとドーヴァーにまくしたてるが、彼は誇大妄想のこの女こそが犯人だと決めつける。
そんななか、とある夫人がガス中毒で死亡するという事件が起きる。彼女こそが真犯人で、それを苦にしての自殺ではないかと目されるのであるが...
さて、何とこの事件では、ドーヴァーは特に何もせずロンドンに帰ることになるのですが、帰りの列車の中で、話は意外な展開を見せます。
悪い出来ではありませんが、ミステリ的に観ると、今ひとつ捻りが足りないですね。
ただ、個別のギャグは結構面白く、読んでいると吹き出してしまう場面も少なくありません。なかでも、年寄りのやぶ医者が出てくるシーンが楽しい。
早川書房 昭和42年5月10日印刷 昭和42年5月15日発行 239ページ 定価300円
50年以上前の作品ですが、ほとんど古さを感じさせず楽しく読めます。
というのも、ちょっと変な人物が勢揃いしている田舎町という舞台が、時間を超越しているからでしょう。そこに、ドーヴァー警部のような人間が乱入してくるという、このパターンが非常に面白いわけです。特に、ドーヴァーと田舎町の婦人連とのカラミは毎回楽しめます。
このシリーズ、「ドーヴァー4/切断」の評判が高いようですが、それ以前の作品も悪くありませんね。