ノンフィクションを読んで見る。<事件編> ( Amazon )
Kindle unlimitedにはノンフィクション作品が結構な数あるようなので、それを読んでみましょう。
袴田事件 ─ 冤罪・強盗殺人事件の深層:山本徹美:プレジデント社
日本最大の冤罪事件かもしれない
袴田事件とは、1966年に静岡の清水市で、味噌製造会社の専務一家四人が惨殺されたうえ自宅が放火された事件。
犯人として、同社に勤めていた袴田巌が犯人と目され逮捕。袴田は、当初犯行を否認にしていていたが、最終的に自白。その後の裁判で、死刑判決を受ける。
袴田被告は裁判を通じ、自白は強制されたものであるとし、一貫して無罪を主張。
警察のずさんな調査、血液鑑定の信憑性への疑いなどから、その後再審請求が何度もなされ、2014年静岡地裁は再審請求を認める。しかしながら、2018年高裁がこれを棄却。
現在でも死刑囚という位置づけは何も変わりませんが、再収監もされていません、事実上の釈放、という位置づけになっているようです。
このドキュメントの出来は...
詳細なドキュメントですが、平板な記録の記述が続き、今ひとつ緊張感がなく冗漫の感があります。
途中で検察の主張の概要、弁護側の反論の趣旨などを、まとめて整理していくプロセスがあればよかったと思います。
しかしながら、そういう記述がほとんどないので、今ひとつ読者に内容が伝わってきません。わたしの理解力が悪いせいもあるでしょうね。
もうひとつ問題なのは、この本の刊行が1994年という点です。もはや内容が古すぎます。文庫になった際に一部追記がありますが、ほんの数ページにすぎません。
「袴田事件」の全体像を知るには、これを読むより、Youtubeに上がっている動画を見たほうがよさそうです。
怪文書:六角弘:光文社新書
著者は「怪文書」の第一人者
どんな分野にも「コレクター」はいますが、怪文書もその対象になるらしい(笑)。
著者は元「週刊文春」の記者で、長年「怪文書」の取材を続け、その成果を解説したもの。
そごう、NEC、拓銀、イトマン、東京佐川など、様々な会社での事例が語られています。
「怪文書入門」というレベル
なかなか面白いのですが、本書は怪文書の紹介のような趣旨ですので、一つ一つの話に踏み込みが欠けています。あくまで入門書と捉えるべきでしょう。
やはり、個々の事件には、それに踏み込んだ本を読むべきです。
グリコ・森永事件なら、一橋文哉の「闇に消えた怪人―グリコ・森永事件の真相 (新潮文庫)」が、やはりすごい。
イトマンの怪文書の作者は、住友銀行の取締役だったことが数年前に明らかにされています。「住友銀行秘史」國重惇史(講談社)
今度こちらを読んでみましょう。
芸能人はなぜ干されるのか:星野陽平:鹿砦社
すごい本だと思うが...
「干された芸能人」の歴史を、戦後すぐの映画界から、現代のお笑いタレント、外タレ、女優まで、詳細な資料で網羅した一冊です。
すごい本であることはわかりますが、芸能界に今ひとつ興味のない身、通読は辛いものがあります。
申し訳ありませんが、途中で放り出してしまいました。
ドキュメントは、作者の筆力にかかっている
事実に基づく「ドキュメント」は、資料の引用、羅列になりがちです。それゆえ、どうしても平板で退屈な記述に陥りやすいという弊害があります。
それをうまくまとめ、読者を引き込んでいくのは、ひとえに作者の筆力ではないでしょうか。
たとえば、立花隆。立花がいかにすごいか、改めて思い知らされます。
「田中角栄の研究」、「中核vs革マル」、「日本共産党の研究」などの著作、そのリーダビリティの高さを可能にしたのはなんだったのか、ということです。
今回ドキュメント数冊読んでみて、それを痛感した次第です。