マリンゼー島連続殺人事件 ( デニス・ホイートリー )

とにかくラストの展開がすごく面白い。“犯人当て” は放棄して、“騙される快感” を味わいましょう。



「捜査ファイルを読む」 5冊めは...

デニス・ホイートリーとジョー・リンクスが組んだ3作目 “The Malinsay Massacre (1938)” の翻訳「マリンゼー島連続殺人事件」を読んでみます。

序文で、ホイートリーとリンクスがシュワップ警部に新たな事件の紹介を依頼、それを受けた警部が、ボーア戦争時代に起きた「マリンゼー家連続殺人事件」を推薦したという形を取っています。シュワップ警部は登場しないのかと思っていましたが、最後に出てきますよ。
今回は派手な連続殺人、問題編は75ページなのですが、めくるめくような展開です。


第五代マリンゼー伯爵毒殺から、連続殺人へ

物語は、第五代マリンゼー伯爵から弟のヘンリーへの書簡から始まる。

マリンゼー伯爵は爵位継承後、派手なもてなしと気前の良さで社交界に名を売っていたが、1888年にミュージック・ホール始まって以来の美人踊り子として人気が高かったフレデリカ・ド・マンテと結婚。
その後、マリンゼー伯爵はしだいに社交界から遠ざかり、マリンゼー島でひきこもり生活を送るようになっていた。
さて、その書簡の中でマリンゼー伯爵は、フレデリカは伯爵夫人に相応しくない女とし、遺言を書き換え、ヘンリーとその後を次ぐウィリアムへ家督を譲るとの考えを明らかにしていた。



その直後、ヘンリーの元へマリンゼー伯爵死亡の電報が届く。

伯爵の死は毒ガスを吸引したものと判明、明らかに殺人である。新しい遺言状はまだ発効されておらず、遺産の殆どはフレデリカ夫人のもとへいくということであった。



ヘンリーの調査

第六代マリンゼー伯爵を継承した弟のヘンリーは、マリンゼー島に乗り込み、自ら調査を始めます。事件の経過は、ヘンリーが甥のコリン・レイバーンへの手紙という形式で進みます。

ヘンリーの調査によると、第五代マリンゼー伯爵は、命を狙われていることをなんとなく感じていたようであった。6ヶ月前に城に泥棒が入り、銀貨数枚を盗まれたことを妙に気にしていたと言う。
それ以来、執事のロドリック・ストバートを呼び、自室前の部屋で寝るよう指示していた。毎晩、部屋の前にストバートが見張っている状態であるうえに、伯爵はドアに鍵とかんぬきをかけ、寝室の窓という窓を釘づけにしてしまっている。

このような状況で、毒殺事件が起こったのである。誰が伯爵に毒ガスを嗅がせることが出来たというのだろうか。


マリンゼー城内の人々

事件当時、マリンゼー城には、伯爵夫婦と使用人数名が寄住していた。

ロドリック・ストバート
執事で、亡くなった伯爵が近衛旅団にいたときの従者らしい、10年前、軍隊をやめると同時に雇われている。少し変わった男で、霊を信じているようだ。
事件当日は、8時半に伯爵の部屋をノックしたが、返事がないのでドアを押し破って死体を発見したという。

ノーマン・ウォード
馬丁で、外の仕事を一人でやっている。雇われたのは3年前で、ロンドン生まれのせいか、馬丁にしては態度に高ぶったところがある。24歳でなかなかのハンサム。
フレデリカ夫人と馬小屋で毎週何時間も一緒に過ごしていることを、ストバートに目撃されている。

キャロライン・コードレー
23歳、美貌の女中である。フレデリカ夫人付きのメイドというが、寝室のほか自分だけの居間が与えられるなど特別待遇を受けている。フレデリカ夫人の血縁者のようだ。
また、第五代マリンゼー伯爵にも、毎夜本を読み聞かせるなどしており、お気に入りだったと言う。


マリンゼー島の住人

ヘンリーの調査は、城外に住む島民にも及んだ。村を除けば、島にある家は3軒だけで、下記の人間が暮らしている。

ロビン・ハーディは、神経衰弱の治療に来たという新聞記者。城のまわりをうろついては、首を突っ込んでくる。
ヘンリーは、当初うるさく感じていたが、知り合ってみると案外いい男だと気に入ってしまう。通信社の特派員であることで信頼し、情報収集を頼んでいる。
ハーディはそれを受け、早速関係者の「スナップ写真」を撮るなど、島内を聞き込みに回り、経過をヘンリーに報告していた。


クロード・パーブライト
画家で、ロンドンから頻繁にやってきて、滞在している。
どうも、メイドのキャロライン・コードレーに執心らしい。夜になると、城にコードレーを迎えに来て散歩にでかけたりしていた。事件当日も呼びに来たが、彼女が伯爵の相手をしており散歩に出られぬとわかると、かんしゃく玉を爆発させたという。嫉妬深い性格のようだ。

オスカル・グリュンドル
スイス人の地質学者だと言う。
先代に城のすぐ外の調査をしたいと書面で頼み、4年前から島にある家に住んで、発掘調査をしている。村人を雇い、ここを掘れ、あそこを掘れとやっているが、あまり成果はでていないようだ。

さらに、コリンの勧めもあり、

ヘンリーは息子のウィリアムをマリンゼー島に呼び寄せるのだが...

マリンゼー一家殺戮か..

ところが、

このウィリアムまでが毒殺される

という事件が起きてしまう。彼は、郵便で送られてきたキャンディを食べ、それにあたったとされる。


ウィリアム死亡を受け、姉のエミリーも島にやってくるのだが、

さらに、マリンゼー家の悲劇は続くのであった。

問題編を読んで

問題編の最後に下記の記述があります。

コリン・レイバーンは、ここで殺人犯を断定するのですが、どのような証拠に基づいて犯人を割り出したのでしょうか。この袋とじページをあける前に、つぎの3点を書き出してみてください。
a 被害者
b 殺人犯人
c 動機

どうも “a” がよくわからない。「被害者」はあきらかなんじゃないのか?
何かありそうだな。ホイートリーとリンクスは曲者だからな(笑)。
動機を考えると、犯人は一人しか考えられないのだが..、プロローグに引っ掛けがありそうだ..

と色々考えてみました。さて、どんな結末を付けてくれるのでしょうか。


解決編を読んで

今回も二重構成になっていて、楽しく読めました。ただ、犯人当てのテキストとしては難しすぎて、正解は無理でしょう。
二重構造の最初の推理も十分に面白いものです。細かいことは言えませんが、そこで指摘された殺人の動機がなかなか突飛で、意表を突かれてしまいました。ちょっとチェスタトン的とでもいいましょうか。

それはさておき、最後の展開には正直びっくり。実現可能性については疑いますが、19世紀末の話なので、大目に見ましょう。
なにはともあれ、

騙される楽しさを十分に味あわせてもらった

これだけは確かです。
ホイートリーとリンクスは、本当にやってくれるなあ。


購入したのは

購入日、場所とも不明ですが、見開きに750円(定価2580円)のシールが貼ってあります。これは天牛でしょうね。

昭和58年4月15日印刷 昭和58年4月25日発行