危険な童話 ( 土屋隆夫 )
犯人がわかっているミステリは面白さ半減。また、不自然な設定や指紋トリックに無理が目立ちます。
今回は多岐川恭の「変人島風物誌」に続いて、桃源社の「書き下ろし推理小説全集・第二期」の一冊として書き下ろされた土屋隆夫(1917-2011)の「危険な童話」(1961)を読んでみます。土屋のレギュラー探偵といえば、「影の告発」(1963)以降に登場する千草検事ですが、この作品は長野の刑事が主人公。作者としては三作目の長編に当たります。
こんな話
刑事の木曽のもとに、殺人の報告が入るところから事件は始まります。
被害者である須賀俊二は、傷害致死の罪で服役していたのだが、それは木曽が転勤してきて初めて扱った事件であった。その須賀は最近仮釈放になり、従兄弟の未亡人木崎江津子にその報告に来ていたのだと言う。彼女の話によると、須賀を饗すべく買い物に出ていたのだが、帰ってくると須賀が刺殺されていたというのだ。わずか数分の間に起きた殺人であった。木崎家は路地の奥に位置しており、入口部分にいた人間は、不審な人間は見かけなかったと証言している。
この状況から警察は木崎江津子を逮捕するのだが、肝心の凶器が見つからない。さらに、匿名の手紙が警察に投書され、そこには犯人しか知りえない事実が記されていたのだ。そのうえ、投書には関係者以外の指紋が付いていたことが判明したのである。
数日後、2番めの投書が送られてくる。そこには凶器の隠し場所が示されており、その場所からは凶器と思われるナイフが発見されたのである。結局、警察は彼女を釈放せざる得なかった。
一方、投書についていた指紋からは意外な事実が浮かび上がる。その持ち主は笹部用吉という性犯罪者だったのだが、笹部は事件関係者との間になんの繋がりもないうえ、犯行時には完全なアリバイがあったのである。その笹部が毒殺死体で発見される。彼は事件にどのような役割を果たしていたのであろうか。木曽は、とある発見から木崎江津子への疑いをさらに強くするのであったが..。彼女に犯行は可能なのだろうか。
読み終えると
どんなにトリックがよく考えられていても、犯人が最初からわかっているミステリは、その面白さを自ら半減していると言っても過言ではないでしょう。「アリバイ崩し」物などはその定型ですが、この作品もその例に漏れません。
さらに、いくつか不自然な設定が目立ちます。なぜ犯人は自宅で殺人を犯さなければいけなかったのでしょうか。自らが唯一の容疑者となってしまうような環境で犯行に及ぶとは、愚の骨頂とでも言うべき所業です。第二の事件のようにホテルに被害者を呼び出すなど、捜査範囲から外れる手段はいくつもあったはずです。
また、指紋をめぐる設定も自ら墓穴を掘っているようなもので、これも不自然きわまりません。二番めの投書で凶器のナイフを発見させるだけで、第三者の存在を明確にできるわけですから、そんなリスクを取る必要性はありません。これは話を膨らますための設定であることは明白で、ミステリとしてはいささかお粗末と言えるでしょう。
桃源社 昭和36年5月30日発行 286ページ 280円