囁く死体、殺人のためのバッジ、金髪女は若死にする ( W・P・マッギヴァーン )
マッギヴァーンの初期三作を読んでみる。
W・P・マッギヴァーン(1918-1982)は、シカゴ生まれの作家。20作ほどの作品を残しており、映画化されたものも少なくありません。ただキャリアの後半はミステリから離れていったようです。
囁く死体(1948) HPB318 井上一夫訳
マッギヴァーンの処女作です。
探偵雑誌の編集長となったスティーブ・ブレイクは、その助手としてバイロン・クロフォードという男を雇い入れるが、彼はとんだトラブルメーカーであることが徐々に判明する。あるパーティの夜、スティーブは彼を殴り倒してしまうのだが、その当夜、クロフォードは死体となって発見されたのだった。当然、警察は彼を第一容疑者とするのだが、その後スティーブの秘書であるキャロルが自首してきたことで、事件は落着したように思えた..。
読み終えてみると..
その後のマッギヴァーンの作品に比べ、あまり特徴のない作品といえるでしょう。
ストーリー展開は巻き込まれ型のサスペンス物、主人公の性格設定も平凡で、作者の個性が伺われません。ですが、ラストは関係者を集めての一席もあって、本格味もあるスリラーとして楽しく読めます。
早川書房 昭和32年3月31日印刷発行 209ページ 定価150円
殺人のためのバッジ(1951) HPB588 佐倉潤吾訳
いわゆる悪徳警官物。主人公バーニー・ノーランが金目当てに賭博師を射殺するところから始まります。
彼はかねてより問題の多い警官とみなされているのだが、男が逃げ出したので発砲したとするノーランの主張は、警察内部で受け入れられてしまう。ノーランの行動に疑問を持った新聞記者マークは、彼の愛人に近づいていく..。
読み終えてみると..
ノーランは奪った金を惚れている女に預けてしまうのですが、そのバカさ加減に呆れてしまいます。当然のようにそこから破局となるわけで、工夫のない展開にがっかりというところでしょうか。「悪徳警官」というテーマは、発表当時は大きなインパクトがあったのかもしれませんが、今となっては古臭く、それだけに寄りかかっているストーリー展開は評価できません。
早川書房 昭和42年10月25日再版印刷 昭和42年10月31日再版発行 194ページ 定価250円
金髪女は若死にする(1952) HPB306 野中重雄訳
フィラデルフィアの私立探偵ビル・カナリがシカゴにやってくるところから話が始まります。
彼はそこでジェーン・ネルソンという女性と会うことになっていたのだが、自宅を訪ねた彼を待っていたのは、彼女の死体であった。ジェーンはナイトクラブの歌手だったが、弟が薬物中毒になっていることを知り、麻薬組織を調べようとしていたらしい。彼女の死に怒りを覚えたカナリは、その真相に挑んでいく..。
読み終えてみると..
ビル・ピータース名義で書かれた唯一の作品。
解説によると「スピレインの大当たりに刺激された出版社が、第二のスピレインをねらって、新人たちを続々売り出した中の一点である。」とのこと。確かにこの作品のラストなど「裁くのは俺だ」にそっくりです。マッギヴァーンのオリジナリティを感じない作品ですが、B級ハードボイルドとしては悪くありません。
早川書房 昭和42年10月25日再版印刷 昭和42年10月31日再版発行 177ページ 定価230円
三作通読してみましたが、一番世評が高い「殺人のためのバッジ」にがっかりすることになるとは意外でした。やはりマッギヴァーンは、1956年「ファイル7」以降、「緊急深夜版」、「明日に賭ける」あたりがピークでしょうね。