地獄のきれっぱし、真夜中の眼 ( マイク・ロスコオ )

1960年代のポケミスが量産していた軽ハードボイルド、その中の一人マイク・ロスコウの作品を読んでみます。


 解説によると、マイク・ロスコオ( Mike Roscoe )は、マイケル・ルゾとジョン・ロスコウという二人組のペンネームで、彼らは実際の探偵社で働いていた同僚とのこと。1960年代は、007 ジェームズ・ボンドから始まるスパイ物の隆盛が顕著でしたが、ハヤカワ・ポケット・ミステリでは、カーター・ブラウンがなんと60冊も出版された時代( このあたりについては、「ハヤカワ・ポケット・ミステリの分析結果」にまとめております )。
 その波に乗った形で、B級軽ハードボイルド物が相当数翻訳されているのですが、ロスコウの作品もそれにあたります。カンザス・シティの私立探偵 ジョニー・エープリル が主人公、美人秘書と警察関係者がレギュラーとして周りと固める、というこの手のハードボイルドでは定型的な構成です。


地獄のきれっぱし(1954) HPB830 田中小実昌訳


 ジョニー・エープリルは、秘書のサンディが人情にほだされ、ある老婦人から金にならない依頼を受けてしまったことに不平タラタラだった。それは婦人の亡くなった友人の遺品をサンフランシスコまで取りに行くと単純なものなのだが、その依頼料はバス代とほかに50ドル、というしょぼいもの。
嘆くエープリルのもとに願ってもない依頼が舞い込む。こちらは手付に前金で1000ドル、サンフランシスコの業者マニー・レーンの調査というもので、渡りに船とばかりにこの依頼を引き受ける。しかも、サンフランシスコにいく飛行機の中では、セクシイな女性ペニイと知り合うなど、その幸運にエープリル浮かれてしまう。
 しかし、サンフランシスコの現地で待ち受けていたものは、マニーの配下と思われる人間からの荒っぽい洗礼であった..。


読み終えてみると..

 いいテンポで話が進むので退屈しません。ラストにはちょっとしたひねりもあって、十分合格点と言えるでしょう。
ただ、ストーリー展開は定型的で登場人物像に面白みがありません。通常、探偵が他の都市に出向くと、現地警察から嫌味を言われたり、ひどい場合は妨害されたりして、そのアウェイ感が話を盛り上げるものなのですが、こちらサンフランシスコ警察の人間はあまりに善人揃いで盛り上がりません。また、犯行の動機となるものが、伏線として全く触れられていないのも大きな欠陥。このあたりに、この作家の限界を感じます。

早川書房 昭和39年3月25日印刷 昭和39年3月31日発行 206ページ 定価230円


真夜中の眼(1958) HPB837 田中小実昌訳


 ジョニー・エープリルは浮気調査の依頼を受け、その逢引現場を見張っていたのだが、突然一人の男が男女の間にフラフラと現れると、そこに一台の車が通り抜けざまに男を乱射したのである。
どうやら、被害者は保険会社の調査員らしい。彼はある宝石盗難事件を担当していたのだが、警察には内密に犯人と交渉、宝石を買い戻そうとしていたという。彼が持参したはずの25万ドルは現場から消えており、エープリルがそれを持ち逃げしたのではないかという疑いまでかかってしまうのだった..。


読み終えてみると..

 こちらの作品は展開がもたもたしていて、中盤が退屈。ちょっとしたひねりや意外性もないので、残念な出来と言わざる得ません。

 ロスコウのジョニー・エープリル物は、結局この作品で終了してしまったようです。この作品の解説では、その理由について下記のように考察しています

ロスコウの特徴は、非常に素人っぽいこと、つまり私立探偵時代に知った経験を素直に、そっくりそのまま書いていることである。が、それが使えるうちはいい。書き尽くしてしまったらどうなるか?。もともと作家になる勉強などした人たちではないから、筆を絶って元の探偵稼業にもどるより仕方がないだろう。

厳しい指摘です。
それでも「地獄のきれっぱし」は悪くない出来だったので、第一作の「 Death is a Round Black Ball(1952) 」は読んでみたいと思い検索してみましたが、何も出てきません。最近、50年代のハードボイルドがかなりの点数復刊されているので、この作家はどうかと考えたわけですが、残念ながらその気配はありません。さすがにアメリカから古本を購入する気にはなれないですね。

早川書房 昭和39年5月10日印刷 昭和39年5月15日発行 219ページ 定価250円