密室の鎮魂歌 ( 岸田るり子 )

文章力のある作家だ。ミステリ的に見ると、密室の必然性に乏しく、むしろ邪魔になっている。


今回、読むのは...

まずは、東京創元社による紹介を引用します。

女流画家の個展会場で、ある作品を前に一人の女が声をあげた。この画家は、五年前に失踪した自分の夫の行方を知っているはずだと。その失踪事件は謎に満ちていた。そして、その後、現場だった家で起きた密室殺人。さらに密室殺人は続く。絵に隠された驚くべき真実! 人間の情念を縦糸に、ロジカルなトリックを横糸に織り上げられた岸田ミステリの原点。第14回鮎川哲也賞受賞作。

筆力はあるけど、ミステリーセンスは?

この作家は、しっかりした筆力があるとおもいます。
登場人物がうまく書き分けられているので、読者を迷わせないし、話の展開にはよどみがありません。中盤までは楽しく読めます。

一方で、ミステリー的なセンスには若干欠けていると言わざる得ません。
まず、密室が浮いています。
最初の不可能興味はまだ頷けますか、それ以降には全く必然性がありません。
密室にしたことで、犯人の範囲を特定してしまいますので、こんなことをしたら自らの首を絞めてしまいますね。
最後の事件など、わざわざ読者に犯人を報せてしまうような設定です。
また、この小説のキモであろう画家の正体なども、読み慣れた読者にはすぐわかってしまうでしょう。

今後の方向性

作者が本当に書きたいのは、そこではないのでしょう。
下手な密室トリックなど考えずに、しっかりしたサスペンスノベルに仕上げれば、もっと面白くなったような気がします。
次作に期待したいと書きたいですが、この作品は2004年の作品で、もう15年前の作品です。これ以降の作品を全く知らないので、なんとも言えませんが、ミステリーはこの作家の分野ではないような気もします。