手掛りはここにあり ( デニス・ホイートリー )

このチーム最終作は無味乾燥なパズルで、ストーリー展開に面白みがなく残念な出来でした。



「捜査ファイルを読む」 7冊めは...

デニス・ホイートリーとジョー・リンクスが組んだ4作目 “Herewith the Clues (1939)” の翻訳「手掛りはここにあり」を読んでみます。

この作家ペアの最終作です。
これまでの作品の舞台設定は古典的でしたが、今回はIRAのテロリストにまつわる話らしい。


テロリストの登場

IRAのテロリストであったショーン・コノリーが、ロンドンの「ミルキーウェイ」というクラブに入っていくところを、警察によって目撃される。彼は、南アフリカに定住していると信じられていたが、再び英国に潜入したとなれば、IRA組織活動に積極的に関わり始めたことは間違いない。このクラブは、どうやら組織員の密会に使われているようだ。

警察当局は、クラブ「ミルキーウェイ」の張り込みを強化するとともに、このクラブの経営者であるセルゲイ・オルロフというロシア人に接近する。オルロフは、ボルシュビッキの運動家で熱烈なトッロキー信奉者だったが、1929年にトロッキーが失脚すると、スターリン一派による粛清を逃れるため、英国に政治亡命したという過去を持つ。警察は、オルコフの滞在許可の取り消しや、ソ連への強制送還をちらつかせて、彼の協力を半ば強制的に取り付けた。

彼によると、組織との関係は、1月はじめにハインリッヒ・ホイザーというドイツ人ジャーナリストが客としてクラブを訪れたときに始まったという。ホイザーは、かつてトロッキーのシンパで、オルロフとはロシアでいくつかの作戦をともにした仲であった。現在、彼は「IRAを通じて、大英帝国に戦いを挑んでいるのだ」と打ち明けた。

オルロフ自身は、革命の可能性を信じていなかったが、ホイザーと彼の仲間にクラブを使わせることを了承。現状のメンバーは男11人、女5人の計16名で構成されており、毎週少なくとも一回、クラブで情報交換をしているという。

これを受けて警察当局は、スピンコット巡査部長をクラブのドアマンとして送り込み、監視体制を強化することとした。


当局の捜査は進む...

クラブ「ミルキーウェイ」は、シェパーズ・マーケットと背中合わせにあり、オルコフは、ここにも建物も契約していた。しかも、この物件には「秘密の部屋」があり、クラブとは隠し戸で通じているというのである。マーケット側の入り口は、厳重に封鎖されており、出入りできるのは、その隠し戸だけとのことであった。

さらに、オルコフはIRAグループの会合は、毎回この「秘密の部屋」で行われていると証言する。用心のため、この部屋の鍵はオルコフだけが持っていて、メンバーが来るたび毎に鍵を開けて招き入れる、という面倒な手順を繰り返しているとも言う。

以上の状況を把握した警察はメンバーの集まる日時を狙って、手入れを行うこととなった。


手入れ当日に殺人が...

ところが、それは無残な失敗に終わる。

警察が現場に踏み込む直前、クラブ「ミルキーウェイ」で二発の銃声がとどろき、さらには大きな爆発が起こって、クラブ内から大勢の人々がなだれを打って駆け出してくるという大パニックとなってしまったのである。ドアマンのスピンコット巡査部長は客を制止しよう試みるが、押し倒され卒倒する始末であった。

混乱の中、クラブ内に踏み込んだ警官が発見したのは、オルコフの射殺死体であった。

殺人者は、まもなく手入れがあること、それがオルコフの裏切りであることを察知し、彼を射殺。その後、マーケット側の塞がれていた窓を爆破し、退路を開いたと思われた。


隠しカメラが捉えた容疑者たち

スピンコット巡査部長は、現場に隠しカメラを設置し、当日の人物の動きを記録していた。オルコフがクラブに到着したのをきっかけに、容疑者は順番に集合していたようだ。関係者は15名、その中の一人が殺人者だろう。


さて、今回の出題は...

ここまでが問題編。今回の出題は少し変わっていて、

  • 容疑者のうち七人は、それぞれ一つの理由、他の七人は二つの理由によって、オルコフ殺しについては完全に潔白が証明されます。
  • 十四人の殺人容疑を正しくはらすことができれば、殺人犯人は残りの一人ということになります。
    とのこと。

要するに、消去法で容疑者を除去していけということのようです。

今回は添付資料が多く、遺留物も凝っています。薬莢なんて、作るのに苦労したろうなあ。

人物紹介には、各自の経歴以外に、年齢、身長、体格、目、髪、肌の項目が書かれているが、これも手掛かりなのでしょうか。


解答編を読んで

正直言って辛気臭くて、あまり考える気がしない出題ですね。どんな結末でも意外に感じられる要素が皆無ですから、面倒になって開封しました。

この作品は単なる推理パズルで、小説としての面白さに欠けており、前三作のような読後の爽快感がありません。
これは勝手な推測ですが、ホイートリーも四作目となると、いささか嫌気が差してストーリー展開にキレを欠いたということかもしれません。ジョー・リンクスの原案をそのままなぞった、それだけに終始したという印象です。


購入したのは

購入日、場所とも不明ですが、見開きに400円(定価2800円)のシールが貼ってあります。これは天牛でしょう。この価格なら、あまり文句は言えませんね。

中央公論社 昭和58年7月10日印刷 昭和58年7月20日発行