現代推理小説体系 ( 編集委員・松本清張、中島河太郎、佐野洋 )


「現代推理小説体系」は講談社から、1972(昭和47)年から1973(昭和48)年にかけて刊行されたものです。まずは収録作品を下記にまとめます。

VOL 著者 作品名 配本順
01 江戸川乱歩 二銭銅貨/心理試験/赤い部屋
屋根裏の散歩者/人間椅子/パノラマ島奇談
鏡地獄/陰獣/芋虫
押絵と旅する男/石榴/月と手袋
防空壕/堀越捜査一課長殿
03
02 甲賀三郎 琥珀のパイプ/体温計殺人事件 16
大下宇陀児 石の下の記録
夢野久作 氷の涯/瓶詰の地獄/死後の恋
浜尾四郎 殺された天一坊/彼が殺したか
03 小栗虫太郎 黒死館殺人事件 10
木々高太郎 人生の阿呆
久生十蘭 ハムレット/湖畔
04 横溝正史 本陣殺人事件/蝶々殺人事件/獄門島 04
05 角田喜久雄 高木家の惨劇/笛吹けば人が死ぬ 06
坂口安吾 不連続殺人事件
岡田鯱彦 薫大将と匂の宮
06 高木彬光 刺青殺人事件/破戒裁判/妖婦の宿 01
07 香山滋 海鰻荘奇談/蝋燭売り/ネンゴネンゴ 15
島田一男 上を見るな
山田風太郎 誰にも出来る殺人/虚像淫楽/眼中の悪魔
大坪砂男 天狗/私刑
08 短編名作集 収録作品 17
黒潮殺人事件(蒼井雄)/犯罪の場(飛鳥高)
三人の双生児(海野十三)/刀匠(大河内常平)
三狂人(大阪圭吉)/蔵を開く(香住春吾)
失踪事件(加田伶太郎)/脱獄を了えて(楠田匡介)
赤いペンキを買った女(葛山二郎)/ラ・クカラチャ(高城高)
闘争(小酒井不木)/ジャマイカ氏の実験/波の音(城昌幸)
痴人の宴(千代有三)/監獄部屋(羽志主水)
かむなぎうた(日影丈吉)/ある決闘/おーそれーみお(水谷準)
八人目の男(宮野村子)/獅子(山村正夫)
文殊の罠(鷲尾三郎)/可哀そうな姉(渡辺温)
偽眼のマドンナ(渡辺啓助)/
09 松本清張 点と線/黒い画集(遭難・紐・坂道の家)/張り込み
顔/一年半待て/万葉翡翠
02
10 鮎川哲也 黒いトランク 05
土屋隆夫 危険な童話
戸板康二 車引殺人事件/団十郎切腹事件/奈落殺人事件/加納座実説
11 有馬頼義 四万人の目撃者 14
新田次郎 落石
菊村到 獣に降る雨/魔女の視線
水上勉 海の牙
12 多岐川恭 異郷の帆 07
佐野洋 死んだ時間
結城昌治 仲のいい死体
13 笹沢左保 招かれざる客 12
樹下太郎 銀と青銅の差
陳舜臣 枯草の根
14 黒岩重吾 背徳のメス 09
梶山季之 影の凶器
邦光史郎 欲望の媒体
15 仁木悦子 猫は知っていた 08
新章文子 危険な関係
戸川昌子 大いなる幻影
16 南条範夫 からみあい 13
三好徹 閃光の遺産
生島治郎 死者だけが血を流す
17 都筑道夫 三重露出 11
海渡英祐 伯林一八八八年
森村誠一 虚構の空路
18 現代作品集 収録作品 18
殺意という名の家畜(河野典生)/羊歯行(石沢英太郎)
最後に笑うもの(大谷羊太郎)臭教(斉藤栄)
壺の中(西東登)/地図にない沼/六字の遺書(佐賀潜)
天国は近きにあり(高橋泰邦)/断崖からの声(夏樹静子)
南神威島(西村京太郎)/黄色の輪(藤村正太)
別巻1 中井英夫 虚無への供物 19
別巻2 資料編 評論・小史・事典・年表 20

さて、作品リストを俯瞰しつつ、当全集刊行12、3年前に出ていた東都書房「日本推理小説体系」(全16巻 昭和35−36年刊行)と比較してみると、残念ながら「質量ともに劣っている」と言わざるえないでしょう。

「日本推理小説体系」は、明治大正、戦前、戦後、清張登場の昭和30年代前半までをくまなく網羅しており、非常に完成度が高いものです。「現代日本推理小説体系」の15巻辺りまでは、時代と作品が相当かぶっていますが、「日本推理小説体系」のほうが収録作品が多いうえ、ここでしか読めないという作品を多数掲載しており、資料的な価値も高いと言えます。
結局、「現代日本推理小説体系」の独自性は、16巻以降だけにとどまります。

一方で、造本装丁はなかなか洒落ていて、半世紀近く経っているにもかかわらず、古さを感じません。個人的にも非常に気に入っています。

また、月報には毎号、当時の現役推理作家による犯人当て小説、前回分の解答、エッセイが載っており、なかなかサービスが行き届いています。残念ながら、全冊揃っているわけではないので、一覧を掲載できないのが残念です。

配本順もだいぶ錯綜していて、彬光→清張→乱歩→正史の順になっています。一般に売れる作家から出すといいますが、どうなんでしょう。


この全集の後半2巻は別巻扱いになっています。

別巻1は中井英夫の「虚無への供物」で、小説であるこの作品を、なぜ別巻扱いにしたかについては、特に触れられていません。

ただ、解説で中島河太郎が冒頭に、

「虚無への供物」はすべて型破りであった。

とし、最後に

乱歩は「冗談小説」と呼んでいるし、また諸家は小栗との関連を説いているが、推理小説へのパロディといったほうが適切ではなかろうか。

としているのが、その理由ということでしょう。

別巻2「ミステリハンドブック」は何と1980(昭和55)年の刊行で、

月報には、

お詫び
当巻は執筆編集に手間どり、当初の予定より六年余も遅くなりました。読者の皆様に大変ご迷惑をおかけたことを、ここに、心からお詫びいたします。

とあります。
また、この月報には、犯人当て小説第19回、藤村正太の「脱文明の犯罪」の解答編が、問題編から苦節6年、ようやく掲載されています。犯人当て解答提出の最長記録じゃないか(笑)。


この全集刊行当時は高校生で、新刊ではとても手が出ませんでした。その後、古本屋でまとまって出てきたときなどを見計らって購入したものです。個人的に愛着の深い全集ですが、1975(昭和50)年辺りから、角川文庫を中心に大量にミステリが文庫化されたこともあって、もはやこの全集は、存在価値そのものを失っていると言っても過言ではないでしょう。
それはあまりに不憫、さすがに10巻辺りまではおなじみの作品ばかりなので、11巻辺りから少しずつ読んでいってやりたいと思っています。