現代推理小説体系 第14巻 ( 黒岩重吾、梶山季之、邦光史郎 )

暗く陰気な黒岩、子供だましの梶山、業界ネタだけの邦光。どれも今では賞味期限切れ。


正直いって、この巻を手に取るのはいささか躊躇しました。どう見ても自分好みの作家ではないからです。「暗く辛気臭い雰囲気の中で、好感の持てない登場人物が、下品な欲望に突き進んでいく」、そんな話を読まされるような気がしてならないからです。さて、どうなりますか。


背徳のメス(黒岩重吾)

主人公の産婦人科医’植’は、政略結婚した妻に裏切られて以来、見境なく女を漁るような生活に甘んじている。そのうえ、上司の医療ミスを指摘した彼は、病院内部でも孤立していた。
そんなある夜、酔って当直室で寝ていた’植’は、ガス中毒で殺されそうになってしまう。彼を狙ったのは、対立している上司なのか、関係している女なのであろうか...。

予想通り、暗くジメジメした陰気な話。舞台は大阪のドヤ街にある病院だから、患者は下品のかたまり、病院関係者も上司におもねる医師と酒に逃げた敗残者、というありさまですから気が重くなります。
ミステリーとしても、何の面白さもありません。ラストで、ちょっとしたひねりでも加えてくれたら、少しは評価できるのですが、全くそんな気配も無し。

これ、直木賞受賞作らしい。どこが評価されたのかなあ。


影の凶器(梶山季之)

この作品、一般に「産業スパイ物」と言われていますが、何のことはない色事師のピカレスクにすぎません。口八丁手八丁の男に、会社の社長から、女秘書、人妻、水商売の女、すべてが丸め込まれるというのがこの作品で、ストーリーを説明するほどの内容はありません。いまならコミックの原作にもなりようのない都合の良い話ですが、これが商業作品として成り立つとは、いい時代でしたね。


欲望の媒体(邦光史郎)

中小代理店に務める小堀は、ある日交通事故の現場に遭遇し、その被害者が大手メーカーの三村であることを知る。それを機会に、野心を抱く小堀は、接近をはかるのだが..。

TV業界を舞台にした情報小説で、ミステリーの要素は全くありません。登場人物はどれも嫌なやつばかりで、全く感情移入できません。ラストも虚しいもので、こんな小説を読んで楽しくなる人間がいるとは、とても思えません。


読前の嫌な予感は、ぴったり当たりました。この巻の三作、そもそも推理小説全集に入るのがおかしい作品ばかり。これ以上書く気になれません、はい。
巻末のエッセイは、梶山季之「推理小説と私」。月報はついていなかったので、詳細不明。

講談社 昭和47年11月8日 第1刷発行 446ページ 790円