現代推理小説体系 第16巻 ( 南條範夫、三好徹、生島治郎 )

この時代の作品には妙な古臭さを感じてしまい、今ひとつ世界に入り込めません。



からみあい(南條範夫)

癌によって死期の近いことを悟った会社社長’河原専造’は、過去に残した4人の隠し子の存在を思いおこし、その探索を部下、顧問弁護士などに命令する。
巨額の遺産をめぐり、関係者の思惑は複雑に絡み合う。後妻は1/3の遺留分に満足せず積極的に介入を図り、秘書や弁護士も自らの利害関係に従って動いていく。
さて、この複雑な「からみあい」を最後に紐解くのは誰だろう..。

設定が面白いので、序盤は非常にスムーズに展開していくのですが、中盤から停滞。それぞれの探索プロセスがつまらないので、話が盛り上がりません。また、欲に駆られた男女の低俗な行動ばかり見せられては、読んでいる方もうんざりします。ラストは意外性を狙ったのでしょうが、「まあ、こんなものか」というレベルですね。


閃光の遺産(三好徹)

舞台は未だ原爆の傷跡が残る広島。発端は新聞に送られた投書から始まる。そこには原爆投下時のドサクサで孤児になった青年の生々しい体験が綴られていたのである。
市会議員もつとめた地元有力者の澄本は、その投稿に目を奪われる。その青年は、不倫の末生まれたとされる自分の息子ではないのか。いても立ってもいられなくなった彼は、その探索を私立探偵海野に依頼するのであった。
海野と澄本の部下と娘が見つけてきた候補者は三人。ところがそのうちの一人が死体となって発見される。莫大な遺産を巡る殺人事件なのだろうか。

この作品もまた相続者探しの話。中盤色々な視点から話が展開されるので、今ひとつ緊張が長続きしません。それでも、ラストに明かされる真相はそれなりの意外性があり、犯行の動機にも説得力のある中々面白いものでした。「からみあい」と比べてみると、このあたりはミステリー作家として資質が違うと言うべきでしょう。


死者だけが血を流す(生島治郎)

大陸から引き上げてきた牧良一は、街の有力者である伯父と対立、独り身で東京に出ていく。孤独な生活の中で学生運動に身を投じた彼だったが、ヤクザ組織の一員に身を置いていた。しかし、そこで正当防衛とはいえ弟分を殺してしまった彼は、ヤクザから足を洗い、ひょんなことから伯父の政敵である進藤の秘書になってしまう。地元の名士でもある進藤は次の国政選挙を目指すが、党の推薦は得られず自らの財産すべてを賭けて挑むことになってしまう。激しい選挙運動が繰り広げられる中で、進藤宅が焼き討ちにあい、夫人は殺され牧も負傷を負う。秘書の座から退き、自らの手で真相を追う牧の前に現れたものは何か..。

何はともあれ、軽快なテンポで一気に読ませます。ストーリー展開は単純で都合の良い展開が続きますが、そのリーダービリティがこの作品の魅力でしょう。意外性を狙ったであろう結末は容易に見当がつくレベルで、もう少しミスディレクションをうまく効かせられなかったのかと惜しまれます。


  • 巻末のエッセイは、生島治郎「この広く自由な道」。
    月報の犯人当て小説は、夏樹静子「数字のない時計。解答編第十二回は斉藤栄「ラーメンたぬきの死」、河野典生がエッセイ「三好、生島さんのこと」を書いています。

講談社 昭和48年3月8日 第1刷発行 437ページ 850円