現代推理小説体系 第7巻 ( 香山滋、島田一男、山田風太郎、大坪砂男 )
島田の軽快なミステリに感心するも、風太郎にがっかり。
上を見るな(島田一男)
「上を見るな」は、講談社「書下ろし長編探偵小説全集」の一巻で昭和三十年刊行。この全集は全十三巻で、戦前の作家と戦後登場の作家が半数ずつというのラインアップになっています。十一巻が欠番なのは、横溝正史がすっぽかしたせいだったと思います。
十三巻目は「十三番目の椅子」として一般に公募されたもので、それまで宝石から排斥され不遇だった中川透が、筆名を鮎川哲也に改め、「黒いトランク」でその座を射止めたことで有名ですね。
第01巻;江戸川乱歩 『十字路』
第02巻;大下宇陀児 『見たのは誰だ』
第03巻;香山滋 『魔婦の足跡』
第04巻;木々高太郎 『光とその影』
第05巻;島田一男 『上を見るな』
第06巻;城昌幸 『金紅樹の秘密』
第07巻;高木彬光 『人形はなぜ殺される』
第09巻;水谷隼 『夜獣』
第10巻;山田風太郎 『十三角関係』
第12巻;渡辺啓助 『鮮血洋燈』
第13巻;鮎川哲也 『黒いトランク』
他の作品では、乱歩の書下ろし「十字路」が注目されましたが、作品の出来では高木の「人形はなぜ殺される」と、島田の「上を見るな」が代表格でしょうか。
さて、その「上を見るな」ですが、島田お馴染みの「東京を舞台にした事件記者物」ではなく、九州島原半島の旧家の相続争いを巡る連続殺人事件という設定になっています。
と言うと、ゆっくりとした展開の本格物と思われるかもしれませんが、さにあらず。快調なテンポで話はどんどん進んでいきます。あまりに続けて人が殺されていくので、目まぐるしいこともこの上ない。それでも、ちょっとしたアリバイトリックもあって、謎そのものも良く考えられています。
主人公は、弁護士南郷次郎。島田の作品ではその後レギュラーとなる探偵役ですが、この作品が初登場のようです。
実はこの作品、再読なのですが、筋を全く忘れていることもあって楽しく読めました。一人称で書かれている南郷次郎の作品は、どれも面白かった記憶があるので、時間を見て「その灯を消すな」や「去来氏曰く」あたりを読み返したいと思っています。
誰にも出来る殺人(山田風太郎)
風太郎の作品は、忍法帖にハマっていたときもありますし、その後の明治小説、奇想小説と名打たれた短編集などなど、かなりの冊数を読んでいるのですが、現代物の長編、「誰にも出来る殺人」、「太陽黒点」、「十三角関係」などは全く未読のまま手付かず。「現代推理小説体系」に入っているので、これは良い機会。
ということで早速読んでみましたが...。これはつまらないなあ。
舞台は、「人間荘」という古いアパート。ここで連続して起こる事件を、複数の入居者が日記で綴るというオムニバス形式の長編です。最終的にはこれを一つの物語として辻褄を合わせて行くという趣向なのですが、これがどうもまとまりが悪く、うまくつながっていません。そのうえ中盤の展開は退屈ですし、登場人物も不快な輩ばかりで、感情移入する余地もありません。多分、ラストはこの人物で集約するのだろう、というのも予想通りでありました。
他に下記の短編二編を収録。
題名 | 評点 | コメント |
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虚像淫楽 | 5.0 | この感性は現代では理解できない。 |
眼中の悪魔 | 6.5 | 探偵小説年鑑で読了済。 |
香山滋は、下記の三編収録。
巻末の中島河太郎の「解題」によると、『登場の翌二十三年に四十四編、二十四年に三十七編という多量生産ぶりは、瞠目に値する。』とのことです。しかし、実際に「香山滋全集1」あたりで現物を読んでみると、「恥ずかしくもなく、よく出したなあ」と目を覆うような出来ばかりで唖然とした記憶があります。結局、香山は「桃源社でまとめられた『海鰻荘奇談』一冊(講談社大衆文学館版も内容は同一)読めば十分」というのがわたしの評価です。
題名 | 評点 | コメント |
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海鰻荘奇談 | 9.0 | [昭和22年5月宝石]現代の推理小説(第3巻) ロマン派の饗宴で読了済。 |
蝋燭売り | 6.5 | 探偵小説年鑑で読了済。 |
ネンゴネンゴ | 4.0 | つまらない幻想譚 |
大坪砂男は、下記の二編収録。
題名 | 評点 | コメント |
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天狗 | 6.0 | [宝石 昭和23年8月]現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜で読了済。 |
私刑 | 3.0 | ダラダラ話を長々読まされウンザリ。 |
- 巻末のエッセイは、島田一男「探偵小説から推理小説へ」。
月報の犯人当て小説は、千代有三「最後の章」。解答編は第十四回高橋泰邦「ヨット殺人事件」、草柳大蔵がエッセイ「推理小説の風土学(上)」を書いています。
講談社 昭和48年5月8日 第1刷発行 422ページ 850円