真昼に別れるのはいや ( 笹沢左保 )
「動機捜し」なのだが、少し無理がありすぎ説得力に乏しい。
引き続き、桃源社の「書き下ろし推理小説全集・第二期」の一冊として書き下ろされた笹沢左保(1930-2002)の「真昼に別れるのはいや」(1961)を読んでみます。笹沢は1960年の「招かれざる客」で登場、その後は「霧に溶ける」、「結婚って何さ」、「人喰い」と出来の良い作品を書き下ろしていますが、今回はどうでしょうか。
こんな話
妻に先立たれた新倉春彦は、娘まで自動車事故で失って以来、失意の生活を送っていた。そんな兄を妹の多美子は心配していたのだが、ある時から春彦は自宅に女性を招き入れるようになる。兄の新たな恋人の出現を多美子は喜ぶのだが、その女性は春彦の親会社の社長令嬢で、親が決めた婚約が進んでいたのである。
そんなある日、春彦は旅行に出た後、ダムで死体で見つかってしまう。その死は状況から見て自殺として処理されたのだが、それに疑問を持った多美子は、自ら関係者に話を聞いて回っていた。
この事件に興味を持ったのは多美子だけではなかった。新聞記者の富田は、「就職に不採用になったのは面接担当者の責任だ」という投書に目をやった。その担当者の氏名が、自殺者した新倉春彦と同一であることに気がついた富田は、好奇心に駆られ投書先に出向く。不採用になった青年は赤松といい、その決定に父の省三は激怒していたという。現在、省三は金策に向かっているというのだが、富田が調べてみると、その事実はなく彼は行方不明となっていたのである。その後、省三の毒物死体が発見された..。
捜査途中で出会った多美子と富田は、互いに惹かれ合いながら真相に迫る。彼らが疑いの目を向けたのは...。
読み終えると
この作品のテーマは「動機捜し」です。犯人は中途でわかってしまうので、よほど意外な動機を持ってこないと高い評価は得られないでしょう。しかし、今回の設定は、殺人の動機としてはあまりに弱い。対象である人間だけでなく、自らのアリバイ作りのために共犯者を用意し、しかもその人間まで毒殺する動機がこれでは、あまりに説得力がありません。笹沢のストーリー展開の旨さには感心させられますが、如何せん無理がありすぎました。
桃源社 昭和36年6月15日再版 259ページ 280円
この本、再版がかかっている。さすが笹沢ですね。