第六実験室 ( 佐野洋 )
中盤の展開が退屈なうえ、ラストも予想通り。佐野洋にしては出来が悪い凡作でした。
「日本ミステリ・シリーズ」とは..
「日本ミステリ・シリーズ」は、早川書房より1961(昭和36)年から1963(昭和38)年にかけて発行された日本作家による書き下ろしシリーズで、全10巻が発刊されました。
第01巻;佐野洋 『第六実験室』
第02巻;高橋泰邦 『衝突針路』
第03巻;多岐川恭 『孤独な共犯者』
第04巻;樹下太郎 『自殺協定』
第05巻;結城昌治 『ゴメスの名はゴメス』
第06巻;鮎川哲也 『翳ある墓標』
第07巻;日影丈吉 『移行死体』
第08巻;河野典生 『群青』
第09巻;陳舜臣 『割れる』
第10巻;三好徹 『風は故郷に向かう』
EQMM1964年新年号の広告では、この後に笹沢左保、水上勉の作品が近刊予告されていますが、結局でなかった模様。
さて、早川書房初の日本作家による書き下ろし「日本ミステリ・シリーズ」の第一巻を飾るのは佐野洋。速筆で作品を量産していたわりには、一定以上のレベルを保っていた作家ですから、書き下ろしのトップバッターとしては最適だったのかもしれません。
佐野洋は、「第六実験室」の「あとがき」で
この作品にぼくは四ヶ月以上の日時を費やしてしまった。ぼくとしては、こんなことははじめてのことである。
としていますから、それなりに力を入れた作品だったようです。
肝心のストーリーはこんな感じ。
大学教授の春部は、学生時代の友人である大手観光会社社長、鳥羽の協力を得て「完全犯罪研究所」を設立する。この研究所では、未解決となっている完全犯罪に取り組もうという趣旨で、親会社から秘書が一名、また被験者を公募、いくつかの試験を突破した人間が所員として採用されることとなった。
という発端から話が始まります。
面白かったのは、ここまででした。
中盤のストーリーが、どうしようもなくつまらないのです。このような趣向の場合、複数のプロットが展開され、それが一つに集約されていくような面白さを読者は期待するわけですが、ただ一つの漠然としたテーマが進むだけ。せめて、ひねったラストのオチでもあるのかと思いきや、予想通りの結末という始末。また、登場人物も不快な人間ばかりで、その小悪党的な行動には感情移入できるはずもなく、小説としての楽しさも見当たりません。
「日本ミステリ・シリーズ」の第一巻として期待したのですが、佐野洋にしてはレベルの低い凡作だったのは、残念です。
早川書房 昭和36年11月20日発行 昭和36年11月30日印刷 268ページ 330円