血の栄光、真鍮の栄光(ジョン・エヴァンス)、夜に消える(ハワード・ブラウン) ( ハワード・ブラウン )

ハードボイルドの傑作3編。どれも読ませます。



 ハワード・ブラウン Howard Browne (1908-1999) は、アメリカの作家。Wikipediaによると、

ハワード・ブラウン(Howard Browne、1908年4月15日 - 1999年10月28日)は、アメリカ合衆国におけるサイエンス・フィクション編集者、ミステリー作家であり、その他テレビや映画の脚本もいくつか手掛けている人物である。本名での活動の他、John Evans、Alexander Blade、Lawrence Chandler、Ivar Jorgensen、Lee Francisなど、多数のペンネームを用いて作品を発表した。

とありますが、日本ではジョン・エヴァンス名義で発表した私立探偵ポール・パイン物が有名でしょう。実はこのシリーズ、だいぶ前(40年以上前かな)に読んで非常に感心した覚えがあります。筋書きはもう全く忘れているので、今回再読してみます。さて、若い頃と同じ感想を得られるでしょうか。


血の栄光(1946) HPB852 宇野利泰訳


 パインは依頼場所に赴く途中、牧師が12人も集まっているというの不思議な葬式に遭遇する。その依頼者は不明で、そもそもその死人は変死を遂げた名も知れぬ男であった。その葬式に偶然巻き込まれたパインは警察関係者から疑いの目を向けられてしまう。
一方、パインはある富豪から、娘が無断で結婚しようとしているので、相手の素性を洗い出し阻止できる材料を見つけるよう依頼を受ける。

 ここからは、いかにもハードボイルドという展開で話が進んでいきます。奔放な一人娘、いかにも胡散臭い婚約者、後ろで糸を引いているような街の顔役、などなど登場人物が入れ代わり立ち代わりパインの周りに登場。彼は何回も後頭部を殴られ失神しながら、捜査を進めていきます。

 とまあ、これで集約してしまえば普通のハードボイルド物なのですが、この作品で特筆すべき点は、ラストに待ち受ける意外性。これが二重に仕掛けられているので、少し意表を突かれます。いやあ、面白かった。これはいま読んでも秀作のレベルでしょう。

早川書房 昭和39年8月25日印刷 昭和39年8月31日発行 261ページ 定価280円


真鍮の栄光(1949) HPB879 宇野利泰訳


 「真鍮の栄光」は、ポール・パイン物の第3作目。この間の2作めに「Halo for Satan」という作品があるのですが、ポケミスでは訳出されず、2006年にようやく「悪魔の栄光 (論創海外ミステリ 46)」 として出版されています。わたしは原書で読んでいるようで、「早い展開と意外性で読ませる。もっと書かれて欲しかったシリーズ。」との感想を残していました。

 さて、「真鍮の栄光」の出だしは前作に比べきわめて地味なもの。依頼者は田舎の年老いた夫婦で、都会に出ていった娘の消息がこの1年途絶えているので、なんとか探してほしいというもの。パインはいまある仕事のついでに片付けるつもりで低額な依頼料で引き受けてしまう。
パインは失踪した娘と同室に暮らしていた娘を手がかりに捜査を進めるが、例によって強面のナイトクラブ経営者の手下に後頭部を殴られながら、いくつかの手がかりを得る。事件には複数の女が関係しており、さらにそれを複雑にしているのは同性愛による縺れらしいのだ。

 この作品、中盤が少しゴタゴタしていてもたつくのですが、ラストで判明する犯人の正体には少し驚かされます。この作品も前作以上に意外性は十分、今回は後味もよく楽しく読めました。

早川書房 昭和40年3月5日印刷 昭和40年3月10日発行 235ページ 定価280円


夜に消える(1954) HPB890 村上博基訳


 この作品はハワード・ブラウン名義で書かれたノン・シリーズ物。

 主人公は広告代理店の重役。彼は避暑地から妻と娘を乗せ自宅に戻るのだが、先に車を降りた妻の姿が消えていることに気づく。しかも、すぐ横の垣根には隣家の夫が倒れているのであった。突然の事件に唖然とする彼だったが、警察は主人公の関与を強く疑う。彼はそれを自ら晴らすべく、ある計画を実行するのだった..。

 前半はすごく快調。妻が失踪してしまうというのはよくある筋書きで、だいたい主人公はうじうじと悩みながら関係者に話を聞いて回るという地味な展開になるのですが、今回の主人公の取った計画がすごい。なんと広告代理店の重役という立場を利用し、妻の失踪事件をメディアを使って報道、情報提供を促すというキャンペーンを打って出るというもの。なんという公私混同(笑)。

 さて、ここまではすごく面白いのですが、中盤から尻すぼみ。上記キャンペーンから得られた情報を分析しながら事件解決に至るようなプロセスを期待していたのですが、そのような展開はほとんどなく、いきあたりばったりとも言える主人公の行動で話が集約してしまいます。事件の謎にもラストにも何の意外性もなく、平凡な結末となってしまいました。

早川書房 昭和40年6月10日印刷 昭和40年6月15日発行 173ページ 定価230円


 以上3作、ほぼ半世紀ぶりに読んでみましたが、どれも良くできています。特にジョン・エヴァンス名義の2冊は出色の出来で楽しく読めました。