証拠の問題、雪だるまの殺人 ( ニコラス・ブレイク )

ニコラス・ブレイクを読んでみる。


ニコラス・ブレイク(Nicholas Blake)[1904-1972]は、日本では比較的多くの作品が紹介された作家で、同時代のアリンガム、マーシュ、イネスと比較すると、翻訳された作品数は群を抜いています。
これまで「野獣死すべし」しか読んでいなかったので、今回は処女作「証拠の問題」と7作目の「雪だるまの殺人」を読んでみました。


証拠の問題(1935) HPB696 小倉多加志訳


舞台はスドーリー・ホールという名の予備校。その行事の最中に生徒の一人が殺害されるという事件が起きる。被害者は校長の親族で、校長自身が後見をしていた生徒である。 講師のマイケル・エヴァンスは、校長の妻”ヘロ”と秘密の関係にあった。二人は殺害時刻にも現場近くで密会していたのだが、このアリバイを警察に言うわけにはいかない。苦悩するマイケルだが、現場に彼の鉛筆が落ちていたことがわかり、第一容疑者と目されてしまう。警察に迫られたマイケルは当日のアリバイを告白するが、警察は共犯関係を疑っているようだ。 危機感に迫られたマイケルは、大学時代の友人ナイジェル・ストレンジウェイズに助けを求めたのであった..。

読み終えてみると..

感心するのは、古さ感じさせないモダンな作品であること。とても1935年の作品とは思えません。序盤はリズムの良い文章で学園の様子が描かれており、新鮮さを感じます。このあたりには作者の教養と文章力のレベルが伺えます。

しかしながら、中盤からの展開が今一つ退屈で盛り上がりません。ミステリ的な面から見ると、何のひねりも意外性もなく、誰が犯人であっても構わない曖昧な展開となっていますから、高い評価は出来ません。

早川書房 昭和37年3月25日印刷 昭和37年3月31日発行 233ページ 定価220円


雪だるまの殺人(1941) HPB628 斉藤数衛訳


舞台は、イースタハム荘園のレストニック家。
そこに住む双子の兄妹が、窓から雪景色を見ているシーンから始まります。ビクトリア女王に模した雪だるまに割れ目が出来ているのを発見した彼らは、「ビクトリア女王がバラされていくよ」と思わず叫びますが、同時に雪だるまの中に何かかいることを発見します。
中々効果的な発端ですが、実はこの部分は物語の最後にあたる部分で、ここから話が展開していくわけではありません。


こんな話

話は、ナイジェル・ストレンジウェイズの妻であるジョージアが、いとこである老婦人からイースタハム荘園に招待されるところから始まります。

彼女の手紙には、レストニック家の猫が変な振る舞いをすること、その動きに超自然的な力を感じることが記されており、調査方々来てくれないかとのことであった。苦笑を禁じ得ないナイジェルであったが、ジョージアに促されて渋々出向くはめとなったのである。
荘園に到着したストレンジウェイズ夫妻を待ち構えていたように、レストニック家の長女エリザベス、通称ベティが首を括って死んでいるのが発見される。その死は当初自殺と思われていたが、ロープの結び目の不自然さから他殺の疑いが濃くなってゆく。
ベティは奔放な行動で知られていたが、検死によってコカイン中毒であることが判明した。担当医のホーガン医師は、睡眠療法でその治療に当たっていたのだと言う。妹を愛しながらも、その行動に批判的な兄のアンドルー、婚約者だというダイクスなど、彼らはこの事件にどの様に関係しているのだろうか。


読み終えてみると..

冒頭は派手なのですが、中盤がスローで盛り上がりに乏しく退屈、読み進めるのが辛い展開でした。ラストのちょっとしたヒネリは悪くないのですが、そこまでが如何せん長すぎます。2/3程度にアブリッジしてほしかった、というのが正直な感想です。

早川書房 昭和36年4月25日印刷 昭和36年4月30日発行 266ページ 定価220円