逃亡者、弁護士プレストン ( ロジャー・フラー、E・S・アーロンズ )
60年代テレビドラマのノベラリゼーション2冊。どちらも楽しく読めました
逃亡者(1964) HPB948 一ノ瀬直二訳
まずは、「逃亡者」から。Wikipediaによると、
『逃亡者』(とうぼうしゃ、The Fugitive)は、アメリカABC系列で、1963年から1967年まで放送され、高視聴率を記録したテレビドラマ。妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、警察の追跡を逃れながら、真犯人を探し求めて全米を旅する物語。
とのこと。まあ、有名なドラマですし、リメイク版や映画作品もあるので、知らない人のほうが少ないでしょう。
小児科医リチャード・キンブルは、自宅で妻ヘレンが殺害されていることを発見するのだが、かねてより彼女とは口論が絶えないこともあって、容疑は自ずと彼にかかり殺害の容疑で逮捕されてしまう。帰宅前にキンブルは「片腕の男が家から飛び出すのを目撃した」と主張するが、その事実は認められなかった。彼は裁判で有罪となり死刑宣告を受け、列車で護送されていくのだが、その車両が脱線事故を起こした際の混乱に紛れ、逃走に成功するのであった。
..という経過で、主人公のキンブルが様々な街を転々としていくわけです。彼はなるべく目立たず揉め事にも巻き込まれないようとするにもかかわらず、毎週何らかのトラブルに巻き込まれる..、というのがストーリーラインです。
今回、リンカーンと名乗ったキンブルは、この街のバーにバーテンとして雇われることになるのだが、初日から傲慢な客に絡まれてしまう。ウェルズというその男は、バーでピアノを弾いているモニカという女性を追ってきたようであった。実はモニカはウェルズの妻なのだが、彼の暴力に耐えかね息子を連れて逃げ出してきたのだという。ウェルズは地元の有力者であり、誰も彼に手を出せない。もちろん警察にも手を回しており、キンブルは地元の悪徳警官から、次のバスで街を出ていくよう迫られてしまう..。
とまあ、こんな話。当然のことですが、最後はなんとかうまくまとまって、キンブルは無事に街を去ることになります。
TVドラマとの関連
さて、この作品の原題は「Fear in Desert Town」というのですが、テレビドラマのエピソードリストを見ると、第1シーズン第1エピソードのタイトルが、"Fear in a Desert City」” となっています。
ありがたいことに、Youtube にこのエピソードが上がっていましたので早速観てみましたが、これはほとんど同じストーリー展開となっています。小説の方はジェラード警部にキンブルの居場所を密告する小悪党、バーの主人、キンブルに思いを寄せる女などのエピソードで話を膨らませていますが、基本的な構成は同じです。
そういうわけで、この作品は「TVドラマ第1エピソードのノベラリゼーション」でした。「DV男に悪徳警官」というのは、現在ではありふれたテーマのように思われますが、当時は新鮮だったのかもしれません。
早川書房 昭和41年8月25日印刷 昭和41年8月31日発行 192ページ 定価260円
弁護士プレストン(1961) HPB810 宇野利泰訳
「弁護士プレストン(The Defenders)は、1961年から65年までCBSで放送された法廷ドラマのようですが、この番組は全く記憶にありません。
主人公は、ローレンスとケネスの親子。二人は法律事務所を共同で経営しているのだが、父のローレンスは慎重で、若いケンに大きな仕事を任せようとしない。
今回ケンはある轢き逃げ事件を担当することになる。酒酔い運転による人身事故なのだが、犯人の女性は自分の不運を嘆くばかりで反省の色を見せていない。そのことに彼は怒りを覚えるのだが、その感情を押し殺して入院先の病院を訪れる。被害者の子供の状態はさほど重症と思われていなかったのだが、その後状態が急変、気がついた医者は輸血と手術を進めるべく両親に許可を求めるのだが、敬虔な宗教家の両親は、それは主義に反すると言って認めようとしない。ケンは判事を病院まで呼び出し許可を得た上、なんとか手術を進めるのだが、もはや手遅れで子供は亡くなってしまう。事件は殺人致死にまでなってしまったのだ。
一方、ケンはチャールズ・スコットという男からも相談を持ちかけられていた。ところが、その詳細を聞く前にチャールズは射殺されてしまう。しかも彼は死の直前、友人に電話をかけており、妻のジェニーに撃たれたと告げているのだという。
ローレンスとケンは、この2つの事件にどのように対処するのであろうか..。
TVドラマとの関連
後者の殺人事件はすぐ底が割れるのですが、前者の轢き逃げ事件の真相はなかなか面白く感心しました。しかし、2つの話には何の関連もないので、どうしてこんな構成になっているのか不思議だったのですが、エピソードリストを見ていて気が付きました。原題の「The Defenders」からはわかりませんが、この作品、第1シーズン第8エピソード “The Accident” と第9エピソード “The Trial of Jenny Scott” の2つを合わせたものなのです。なんとか現物を見て確認しました。
なお、余談ですが父親のローレンス・ブレストンを演じた E. G. Marshall は、「十二人の怒れる男」で、論理的に最後まで有罪を主張した「陪審員4番」の人ですね。
早川書房 昭和38年11月25日印刷 昭和38年11月30日発行 235ページ 定価260円