EQMM 1963/1 No.79 新年号

マクベインとギャスキルの中編が読めれば、なんの文句もありません。

題名 作者 評点 コメント
愛に似て‥ エド・マクベイン 6.5 87分署もの。おなじみの展開で読ませるが、真相に至る展開が今ひとつ。長編化前のシノプシスだから致し方なしか。
忘られぬ街 ノーマン・ダニエルズ 6.5 殺人罪で死刑執行された息子を墓地に埋葬しようとする夫婦と阻止を図る地元民の抗争。中々迫力のある展開で読ませる。
三度裏切れ ジョン・D・マクドナルド 4.0 ヤクザの内紛を画策する男。大藪なら三倍面白く書くぞ。
時計を二つ持つ男 ハリイ・ケメルマン 7.0 短い作品で筋もわかるが、いかにも本格物という設定が良い。
男の肋骨 岩田宏 3.0 わけのわからんつまらない話。
完全主義者 ドナルド・マクナット・ダグラス 4.0 お互い探り合う夫婦の心理戦なのだが、ただ長いだけで退屈。
賄賂の世界 ヒュー・ペンティコースト 6.0 不正をめぐり議論する二人の老雄。後味よくまとめる手際が良い。
カイロの東 ゴードン・ギャスキル 7.5 毎回エキゾティックな舞台を工夫する作者だが、今回はカイロの油田。犯人の検討はつくが、面白く読める。
ミステリ如是我聞『誰もが嘘つき』あるいは『作者の視点』 佐野洋 新連載
狂乱の20年代(めりけん誤審物語)運命に呪われた男たち 大原寿人 有名なサッコとヴァンゼッティ事件
隣の椅子(50) 有馬頼義
マイ・スイン 丸谷才一 グルーバーのジョニーとサム物について
紙上殺人現場(その三十六) 大井広介
ミステリ・オン・ザ・ウエィブ 弁圭司 国産TV映画がんばれ!
ミステリ・ニュー・ウエィブ sin 神田の古本屋を散歩する
あなたにそっくり
東京三面鏡(33) 青木雨彦 事件記者日記
探偵小説風物誌 中内正利
表紙 東君平
カット 北園克衛
ページ 218ページ
定価 180円

丸一年中断していた「EQMMを読む」ですが、コロナの収まった2021年12月、なんとか実家から1963年以降をサルベージしてきました。EQMM全冊購入した際には担いで帰ったものですが、そんな馬力はもはやありません。今回は宅急便で送付しましたが、久しぶりに読むEQMMには感慨深いものがあります。

さて、1963年のEQMMですが、まず製本が変わりました。従来は丸背、中綴じでしたが、この号から一般的な形態となりました。これは耐久性という面で大きな改良と言えるでしょう。50年以上経過して見るとよくわかるのですが、丸背の場合、表紙が簡単に離脱してしまうという弊害があります。実際、わたしが読んできたこれまでの号でも、この状態に陥ってしまたものが少なくありません。
次に、こちらのほうが重要でしょうが、新たに編集長が常盤新平となりました。都筑道夫、小泉太郎こと生島治郎の後を継ぐ三代目です。これからの手腕に注目しましょう。

それでは、1963年1月号を振り返ります。

  • 巻頭を飾るマクベインの作品は、「アーゴシイ」誌に載ったものを版権を取って掲載とまえがきにあります。先のEQMM1962年総括で、『EQMM日本語版が、「ハヤカワ・ミステリ・マガジン」として生まれ変わるのは、これから3年後のことですが、すでにこの段階で、本国版EQMMから独立した雑誌に成長している』と書きましたが、まさにその面目躍如といったところです。
  • ケメルマンの作品が紹介されたのは、これが初めてかもしれません。安楽椅子探偵ニコラス・ウエルト物の一作です。この作品を含む短編集「九マイルは遠すぎる」がポケミスで刊行されたのは、この8年後、1971年のことです。
  • 毎回舞台設定が楽しいゴードン・ギャスキルですが、今回は石油試掘現場での殺人事件。主人公とその恋人、そしてアラブ人の探偵が協力して解決にあたるというストーリー。楽しく読めます。
  • 新連載として、佐野洋の推理小説論が始まりました。後の「推理日記」につながる前段なのかな? 一回目を読んでみましたが、何やら愚痴っぽくてあまり面白くありません。これからに期待..できるんか(笑)。
  • 「ミステリ・ニュー・ウエィブ 神田の古本屋を散歩する」で、フレミングの「ドクター・ノオ」に「医者はいらない」という邦題がついていた逸話が紹介されています。この有名な話は、これが初出でしょう。店は「文庫川村」とのことでした。
  • 第5回コンテストの応募が掲示され、賞金総額180万円とぶち上げています。