EQMM 1964/1 No.91 新年号

新年を飾るにふさわしい作品揃い。楽しく読めました。

題名 作者 評点 コメント
変身 マルセル・エイメ 5.0 宗教臭い小説は趣味でない。
路上の出来事 L・E・ビーニイ 6.5 ドレスに憧れる少女は脱走者に拘束される。ラストの行動が面白い。
蝋の涙 ジョルジュ・シムノン 7.5 田舎村での殺人事件の捜査に赴くメグレ。哀しい動機が印象に残る。
馬毛の綱 レスリー・アーネンウィン 6.0 ウエスタン・ミステリ。なんのひねりもないが、設定で読ませる。
あなたに似た人 ロアルド・ダール 4.0 どこが面白いのかわからん。
剽窃 ビル・ヴィナブル 7.5 アイディアを与えてくれる小人に出会った小説家は、精神科医に相談してみるが..。オチが愉快。
笑う男 パトリック・クェンティン 8.0 無差別連続殺人が一つに統一されていく過程が良いし、何と言っても意外な犯人には驚いた。
隣り同士 デイヴィッド・イーリイ 7.0 隣人との過去のトラブルを話す男の不気味さが印象に残る。
ヘロー、ジョー ウイリアム・フェイ 3.0 つまらないボクシング小説。
肉体の荊 トマス・B・デューイ 6.5 この作品は長編の原型なのかもしれないが、人物像の書き込み不足でラストの展開が生きていないのが残念。
メグレとボンドの世界を語る ジョルジュ・シムノン
くたばれハードボイルド(2) トーマ・ナルスジャック
極楽の鬼 石川喬司 新連載
紙上殺人現場(その四九) 大井広介
わが翻訳ことはじめ 高橋泰邦 新連載
ミステリ・オン・ザ・ウエィブ 刺片子 いろいろ路線。
野暮な話 つまらない世間話。こんな連載はやめてほしい。
Silly Talk 目次にも乗っていない穴埋め。
消えた身代金 30万ドル 朝村耕造 世界未解決事件簿
閑人雑記帖 木村荘十 新連載だが面白くない。今後とも期待薄。
マガジン・パトロール sin 創刊30週年を迎えたエスクァイア誌
ペーパー・チェイス K 大英帝国製カーター・ブラウン。ハンク・ジャクソンという作家とのことだが、知らんなあ。
探偵小説風物誌 中内正利
響きと怒り 読者のお便りを1ページに拡大し、新連載
表紙 勝呂忠
さし絵 勝呂忠・真鍋博・佐藤努・金森達・田中武柴
ページ 218ページ
定価 180円

常盤新平編集長2年目のスタートにあたる1964年の新年号。昨年、1963年度はあまり出来の良い年とは言えませんでしたが、さて今年はどうでしょうか..。

この号を見るかぎり、昨年の不振を払拭しそうな勢いがあります。
まずは評論およびエッセイの見直し。長々と続いた有馬頼義「隣の椅子」、青木雨彦「東京三面鏡」がなくなり、今月号から翻訳ミステリをターゲットにした書評として石川喬司の「極楽の鬼」が始まりました。国内ミステリの大井広介「紙上殺人現場」と共に、両輪を担うことになります。
また、(読者のお便り)を「響きと怒り」として最終1ページに拡張したスタイルは、EQMMからハヤカワミステリマガジン(HMM)に移行後も長く引き継がれていく形態となりました。ただ、もう一つの新連載、木村荘十「閑人雑記帖」というのは如何なものでしょう。初回を読んだ限りでは、とてもEQMMの誌風に合うとは思えないのですが。
表紙も勝呂忠「三度目の登場」で刷新されました。

肝心の作品ですが、今号ではパトリック・クェンティンの「笑う男」が出色の出来。いささか強引のところもありますが、やはり意外性のあるミステリは面白いですね。これ以外も出来の良いものが多く、久しぶりにEQMMのクォリティを味わうことが出来ました。
この号を見る限り、「1964年度のEQMMは期待できる」と言って良いでしょう。