EQMM 2019/12 No.0 EQMM43号から54号(1960年)までを総括する。
作品の分布について
43号から54号までの作品数は全131編。
平均点が大幅に上昇しています。また、標準偏差は今まで最小です。
ばらつきが少なく、平均以上の粒ぞろいの作品が揃っていた
ということですね。
総数 | 平均 | 偏差 | 8.5 | 8.0 | 7.5 | 7.0 | 6.5 | 6.0 | 5.5 | 5.0 | 4.0 | 3.0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
131 | 6.21 | 1.18 | 1 | 6 | 19 | 22 | 24 | 20 | 8 | 20 | 7 | 4 |
% | 0.76 | 4.58 | 14.50 | 16.79 | 18.32 | 15.27 | 6.11 | 15.27 | 5.34 | 3.05 |
特に後半以降、面白さが増しているような気がしたので、それを確認してみましょう。
前半(1月〜6月)
総数 | 平均 | 偏差 | 7.5 | 7.0 | 6.5 | 6.0 | 5.5 | 5.0 | 4.0 | 3.0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
64 | 6.10 | 1.22 | 9 | 15 | 11 | 10 | 5 | 7 | 3 | 4 |
% | 14.06 | 23.44 | 17.19 | 15.62 | 7.81 | 10.94 | 4.69 | 6.25 |
平均は悪くありませんが、8.0以上の秀作はありません。
後半(7月〜12月)
総数 | 平均 | 偏差 | 8.5 | 8.0 | 7.5 | 7.0 | 6.5 | 6.0 | 5.5 | 5.0 | 4.0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
67 | 6.31 | 1.14 | 1 | 6 | 10 | 7 | 13 | 10 | 3 | 13 | 4 |
% | 1.49 | 8.96 | 14.93 | 10.45 | 19.40 | 14.93 | 4.48 | 19.40 | 5.97 |
作品の質が全体に押し上げられているうえ、ばらつきがより小さくなっています。秀作も7編あります。
やはり、後半から面白くなっていますね。
特に最終2号、11月はダールにペンティコースト、12月はダール2編にエリン、コリア、ギャスキルで締める、という文句のないラインアップでした。
秀作
8.0ポイント以上は秀作。8.5ポイントはそれを上回る作品と評価します。
題名 | 作者 | 評点 | コメント | 掲載号 |
---|---|---|---|---|
マンハッタンの殺人 | ヒュー・ペンティコースト | 8.5 | すごく面白いぞ。一人称の主人公とそのまわりの人間模様がうまく書かれているし、ラストにひとひねりもある。 | 1960-09-051 |
8.5以上の作品 : 1 | ||||
名探偵アレクサンダー大王 | シオドア・マシスン | 8.0 | 舞台設定で確実に読ませるシリーズだが、今回は謎解きも面白い。 | 1960-07-049 |
真夜中のアリバイ | デイモン・ラニアン | 8.0 | 軽妙な語り口におとぎ話のような展開、ラストでくすりと笑わせるオチ、楽しい作品。 | 1960-07-049 |
仮装殺人 | ベン・ヘクト | 8.0 | 筋書きは少し読めるが、変人心理学者の推理とストーリー展開が面白い。読者を安心させるラストもよい。 | 1960-08-050 |
うぶな心が張り裂ける | クレイグ・ライス | 8.0 | テンポよく進むマローン物。でも、トリックはこれしかないな。「密室殺人傑作選」で読んだ記憶があるが、内容はすっかり忘れていた。 | 1960-10-052 |
牧師のたのしみ | ロアルド・ダール | 8.0 | さすがダール。皮肉な結末で笑わせてくれる。 | 1960-11-053 |
ミストラル吹く殺人 | ゴードン・ギャスキル | 8.0 | 昔好きだったギャスキル。40年以上経過した再読も楽しかった。ミステリ的にも良くできています。 | 1960-12-054 |
8.0の作品 : 6 | ||||
秀作(8.0以上) : 7 | 5.34% |
作家別頻出度
登場作家はトータル83名。
下記に2作以上登場した作家を一覧表示します。
作家数 :83名
ヒュー・ペンティコースト : 7
トマス・ウォルシュ : 5
ロバート・ブロック : 4
スタンリイ・エリン : 4
クレイグ・ライス : 4
コーネル・ウールリッチ : 4
ロイ・ヴィカーズ : 4
バリイ・ペロウン : 3
ヘレン・マクロイ : 3
シオドア・マシスン : 3
A・H・Z・カー : 3
マイケル・ギルバート : 3
ロアルド・ダール : 3
クレイトン・ロースン : 3
ダシール・ハメット : 2
ジョージ・ハーモン・コックス : 2
ジョルジュ・シムノン : 2
ベン・ヘクト : 2
ドロシー・ソールズベリ・デイヴィス : 2
スティーヴ・フィッシャー : 2
シャーロット・アームストロング : 2
エラリイ・クイーン : 2
ジョン・コリア : 2
この年度(1960年)は、ペンティコーストの年でしたね。7編登場で、どれも面白い。特に「マンハッタンの殺人」は素晴らしい出来でした。
また、作品の出来はともかくとして、数回にわたって実施された「読者への挑戦」シリーズに、多くの応募者があったことも特筆されるべきでしょう。
読むに耐えぬ作品
題名 | 作者 | 評点 | コメント | 掲載号 |
---|---|---|---|---|
誤算 | エミリイ・ジャクスン | 3.0 | 全くつまらない。 | 1960-04-046 |
ルイズヴィル・ブルース | アルバート・ジョンストン | 3.0 | これもひどい。なんのひねりもない。 | 1960-04-046 |
かくて砂漠に花咲かん | ローレン・グッド | 3.0 | 相変わらず貧乏臭い話。 | 1960-04-046 |
四辻の出会い | ドロシー・ソールズベリ・デイヴィス | 3.0 | つまらん話を長々と。 | 1960-05-047 |
問題あり(3.0以下) : 4 | 3.05% |
まあ、4編なら我慢します。
連載物について
- この年の1月号から、大井広介の「紙上殺人現場」が始まっています。ただ辛口だっただけの「反対尋問」に比べると、大井の批評は良い作品を適切に評価しており、その視点が明確です。ただ、これは一冊の本にまとまっているので、特別なことがない限り内容については触れません。
- 「バック・シート」(中村真一郎)、「ミステリラウンジ」(扇谷正造)も悪くありません。
- 個人的に一番面白かったのが、「ミステリ・オン・ザ・ウェイブ」(刺片子)で、当時のテレビ番組の動向が面白く、非常に興味深いものでした。
- 「東京三面鏡」(青木雨彦)は、テレビドラマ「事件記者」全盛の時代だったからでしょう。後の青木のイメージはありません。
- 「探偵小説風物誌」(中内正利)、正直言って内容にまるで興味が持てないので、読んでいません。この時代はアメリカへのあこがれが大きい時代だったから、それなりに読者がついていたのでしょうか。
- 有馬頼義の「隣の椅子」、作書の自叙伝が延々と続いています。いつになったら終わるのかな。
1960年はV字回復で、EQMM再飛躍の始まりか
そんな気がする一年でした。