EQMM 2020/11 No.0 EQMM67号から78号(1962年)までを総括する。
作品の分布について
67号から78号までの作品数は全108編。
今回も平均は6点以上をキープしています。1961年(平均6.02)より少し数値は上がっていますが、素晴らしかった1960年(平均6.21)に比較すると、少し見劣りします。1961年同様、5点以下の作品が多く、平均点を下げる結果となっています。60年近く前の雑誌ですから、時代とともに劣化していく作品が多くなる事は、致し方ないのかもしれません。
総数 | 平均 | 偏差 | 8.0 | 7.5 | 7.0 | 6.5 | 6.0 | 5.5 | 5.0 | 4.0 | 3.0 | 2.0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
108 | 6.05 | 1.35 | 6 | 12 | 20 | 20 | 16 | 2 | 18 | 9 | 2 | 3 |
% | 5.56 | 11.11 | 18.52 | 18.52 | 14.81 | 1.85 | 16.67 | 8.33 | 1.85 | 2.78 |
作品数が少なくなった理由
1961年度の全作品数は108篇は、1961年度の123篇から大きく減少しています。
これは下記の見直しによるものです。
1961年度の途中から、すべての号を従来特大号(ページ数210ページ程度)としていた形態とするという告示がありましたが、それが1962年4月号で変更されています。
諸物価の高騰は、出版印刷業界にもいちじるしい影響をあたえ、どうしても現在のままでは発行不可能の状態となりましたので、やむを得ず、三誌協定の結果、今四月号より普通号百五十円、特大号百八十円とすることに致しました。よろしくご了承のほど、お願い申し上げます。
エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン
マンハント
ヒッチコックマガジン
これにより、1961年度は1冊のみだった普通号が、1962年は5、7、9が対象となり、総ページが大きく減少しているためです。
そこでも書きましたが、「三誌協定」とは何なのでしょうね。これ独占禁止法に引っ掛からないのかなあ。
秀作
8.0ポイント以上は秀作。8.5ポイントはそれを上回る作品と評価します。
題名 | 作者 | 評点 | コメント | 掲載号 |
---|---|---|---|---|
8.5以上の作品 : 0 | ||||
十二羽の巨嘴鳥 | チャールズ・グリーン | 8.0 | いつも楽しく読めるバーニー少年シリーズ。今回も期待を裏切らない。最終作らしいのが残念。 | 1962-02-068 |
暗黒の試練 | W・P・マッギヴァーン | 8.0 | 侵入者に対決する親子の家族愛と息子の行動力が良い。 | 1962-04-070 |
女が男を殺すとき | フレドリック・ブラウン | 8.0 | エド・ハンター物初の中編。妻に殺されると訴える男。その弟として乗り込むエドの活躍が楽しい。 | 1962-05-071 |
ハワイには蛇はいない | ジャニータ・シェリダン | 8.0 | ハワイにやってきた画家夫婦の微妙な関係をサスペンスフルに描き、ラストまで読者を引っ張っていく手腕はなかなか見事だ。 | 1962-06-072 |
名探偵アレクサンドル・デュマ | シオドー・マシスン | 8.0 | モンテ・クリスト伯にちなんだ仮装パーティでの殺人に、狂人の汚名と自らの容疑を晴らすべくデュマが立ち向かう。犯人の動機が今ひとつだが、ストーリー展開が面白い。 | 1962-07-073 |
野心家刑事 | ウイリアム・フェイ | 8.0 | 町内に敵だらけの刑事が挑む殺人事件。ラストは少し出来すぎだが、意外な展開が面白い。 | 1962-08-074 |
8.0の作品 : 6 | ||||
秀作(8.0以上) : 6 | 5.56% |
1961年の秀作本数(13本、10.57%)に比べると半減しています。それでも平均値は高いのですから、一定以上の品質をキープし続けていると言えるでしょう。
作家別頻出度
登場作家はトータル79名。
下記に2作以上登場した作家を一覧表示します。
E・S・ガードナー : 5
ハロルド・R・ダニエルズ : 4
コーネル・ウールリッチ : 3
ノーマン・ダニエルズ : 3
トマス・ウォルシュ : 3
ヴィクター・カニング : 3
ハロルド・Q・マスア : 2
フレドリック・ブラウン : 2
ブレット・ハリディ : 2
ロイ・ヴィカーズ : 2
ヒュー・ペンティコースト : 2
ヘレン・ニールスン : 2
W・P・マッギヴァーン : 2
ロバート・ブロック : 2
エド・マクベイン : 2
シャーロット・アームストロング : 2
レックス・スタウト : 2
エイヴラム・デイヴィッドスン : 2
ジャック・ロンドン : 2
ウイリアム・フェイ : 2
ハロルドとノーマン、二人のダニエルズが上位に登場していますが、どちらも知らない作家ですが、7点以上の作品が多く期待に答えています。ハロルド・R・ダニエルズの「不気味な小屋」など面白い作品でした。
読むに耐えぬ作品
題名 | 作者 | 評点 | コメント | 掲載号 |
---|---|---|---|---|
ミルフォード市文化繁盛記 | ジョン・ユージイン・ヘイスティ | 3.0 | 何が書いてあるのか理解できない。 | 1962-09-075 |
懸賞試合 | ジャック・ロンドン | 3.0 | 正直言って、何を書きたいのか理解できない。 | 1962-10-076 |
エジプトからきた旅人 | エイヴラム・デイヴィッドスン | 2.0 | 何が書きたいのかわからん。つまらない話。 | 1962-02-068 |
虹をつかむ男 | ジェームズ・サーバー | 2.0 | なんだ、このたわごとのような話は。 | 1962-04-070 |
腕くらべ | O・ヘンリー | 2.0 | なんの話なのか全く理解できない。 | 1962-06-072 |
問題あり(3.0以下) : 5 | 4.63% |
今回は5篇。これくらいは問題ありません。
1962年総括
先に記述した特大号の見直しによる作品数の減少もあって、1961年のイケイケ拡張体制からは、いささか縮退した感が否めない1962年でした。しかしながら、従来と変わらない作品レベルは維持できていますから、大きな問題ではないでしょう。
前回の「EQMM55号から66号(1961年)までを総括する」で、
EQMMをVG回復させ、新たな方向性を作り上げた “小泉太郎こと生島治郎” は、名編集者であった。
と断言、いささか気の早い評価をしてしまいましたが、その思いに変わりはありません。
EQMM日本語版が、「ハヤカワ・ミステリ・マガジン」として生まれ変わるのは、これから3年後のことですが、すでにこの段階で、
本国版EQMMから独立した雑誌に成長している
と考えるからです。
さて、1960年から3年間編集長を努めた小泉太郎こと生島治郎は、1962年度で早川書房を退社、作家専業を目指すことになります。
1963年度からは、常盤新平が三代目編集長に就任。雑誌自体も、背を中綴じから通常の製本に変更、一新された形で登場します。