EQMM 2022/05 No.0 EQMM79号から90号(1963年)までを総括する。

1963年は、常盤新平新編集長の一年目。さて、どんな結果となりましたでしょうか。

作品の分布について

67号から78号までの作品数は全125編。

なんと、平均が6点を下回ってしまいました。

素晴らしかった1960年(平均6.21)、1961年(平均6.02)、1962年(平均6.05)と推移していましたが、今年は何と6.0を切るという大惨事。
1961年、1962年以上に5点以下の作品が多く、これが大きく足を引っ張っています。あくまでわたしの主観なのですが、どうも出来の悪い作品が年々増加の傾向を見せているのは、極めて遺憾と言わざるえません。

総数 平均 偏差 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 3.0 2.0 1.0
125 5.57 1.53 4 13 18 8 23 3 29 1 14 6 5 1
% 3.20 10.40 14.40 6.40 18.40 2.40 23.20 0.80 11.20 4.80 4.00 0.80

秀作

8.0ポイント以上は秀作。8.5ポイントはそれを上回る作品と評価します。

題名 作者 評点 コメント 掲載号
8.5以上の作品 : 0
キュリアス・クイント ドン・ノールトン 8.0 老いた魔術師は自らの死を好事家クラブの課題に残すのだが..。よく出来た設定に感心した。 1963-02-080
干し草のなかの針 フレデリック・ニーベル 8.0 街に越してきた夫妻の自宅に殺人を予告する電話が。ストーリー展開にも緊張感があるし、動機も面白い。 1963-02-080
アダム爆弾の怪 ロバート・L・フィッシュ 8.0 笑ってしまうのが躊躇うような内容だが、これほど大規模なパロディはないな。 1963-10-088
誘拐された王子 ロバート・L・フィッシュ 8.0 推理のやり取りから始まって、陳腐な誘拐事件がしっかり収まってしまうまでが見事。 1963-10-088
8.0の作品 : 4
秀作(8.0以上) : 4 3.20%

1961年の秀作本数(13本、10.57%)、1962年の秀作本数(6本、5.56%)に比べると、今年1963年の秀作本数はわずか4本(3.20%)と大幅減となってしまいました。要するに面白い作品がほとんど見当たらなかったことを意味しています。


作家別頻出度

下記に2作以上登場した作家を一覧表示します。

ヒュー・ペンティコースト : 5
ロバート・L・フィッシュ : 5
ロイ・ヴィカーズ : 3
フレデリック・ニーベル : 3
ノーマン・ダニエルズ : 3
パトリシア・ハイスミス : 3
ハリイ・ケメルマン : 2
ピーター・チェイニイ : 2
ゴードン・ギャスキル : 2
ジェイムズ・ホールディング : 2
W・P・マッギヴァーン : 2
ジョルジュ・シムノン : 2
コーネル・ウールリッチ : 2
ヴィクター・カニング : 2
フレドリック・ブラウン : 2
パット・マガー : 2


読むに耐えぬ作品

題名 作者 評点 コメント 掲載号
男の肋骨 岩田宏 3.0 わけのわからんつまらない話。 1963-01-079
すっぽん パトリシア・ハイスミス 3.0 母親が買ってきたスッポンに執着する少年。暗くて後味が悪い。 1963-02-080
ロボット殺し リチャード・バンクス 3.0 ロボット物なのだが、何というつまらなさ。 1963-03-081
捉われた魂 ドロシー・ソールズベリ・デイヴィス 3.0 人間関係が複雑で話を追うのに苦労する。結局、変な女を書きたかっただけなのか。 1963-06-084
二階の老婆 ディラン・トマス 3.0 これまたよくわからないショートショート。ただ不気味なだけで取り柄がない。 1963-06-084
野性の化身 ルイス・ブロムフィールド 3.0 全くつまらない女の話。 1963-09-087
やどり木の下の殺人 マージェリー・アリンガム 2.0 ゴタゴタしていて筋が全く取れない。 1963-04-082
ポール・ケイン 2.0 何だこの作品。つまらんギャング抗争物だが、ストーリー展開がいい加減で理解できない。 1963-06-084
被告の告白 ヴァージニア・レイエフスキー 2.0 下品でわけのわからない話を、さらに下品な訳で読まされるとは。 1963-08-086
馬泥棒 アースキン・コールドウェル 2.0 何というつまらない話。 1963-11-089
人の心は スーザン・シヤーズ 2.0 これもつまらない話。 1963-11-089
スターリンを殺した男 スターリング・ノエル 1.0 あまりにつまらないので、途中でやめました。はじめての経験ですね。 1963-07-085
問題あり(3.0以下) : 12 9.60%

前年度(1962年)は5篇(4.63%)でしたが、今年(1963年)は12篇(9.60%)、1割弱が問題ありの作品ということです。レベルの低下に目を覆いたくなりますね。


1963年総括

常盤新平新編集長の船出として、残念な結果となった一年目ですが、既存の見直しや新規軸を推進しようとしている姿勢は伺われます。
既成の分野にとどまらず、ボクシング小説、都会小説といった新しいジャンルを切り開こうとしているのは大きな動きだと思います。その後、訳者としても紹介にあたったアーウィン・ショーやバッド・シュールバーグが登場していることなどが代表的なものでしょう。
そもそも、1963年度の作品レベルが低いのも、本国版EQMMのレベルと無関係ではありません。EQMMからの脱却は、すでに1961年度から始まっていますが、このような分野の拡大は、その傾向により拍車がかかったものと考えられます。

また、EQMMを創刊号から読んでいて常に感じていたのは、連載エッセイの物足りなさです。
長期連載だった有馬頼義「隣の椅子」は、当時流行作家だった有馬を引っ張り出しただけという感が強く、その内容は全くミステリとの関連性がなく場違いなものであり、青木雨彦「東京三面鏡」はテレビの事件記者ブームに乗っただけという印象が強く、どちらも内容的にほとんど見るべきものがありませんでした。この両連載と共に、丸谷才一の「マイ・スイン」など、あまり面白味のなかったエッセイが1963年末で軒並み終了となったのは、新編集長の意向なのでしょう。ミステリ連載としての体裁を保っている大井広介「紙上殺人現場」(日本ミステリ評)と「ミステリ・オン・ザ・ウエィブ」(テレビミステリ評)を残したうえで、1964年以降さらにこの分野の充実を図ろうという姿勢が伺われ、来年以降の飛躍が期待されます。