EQMM 2023/06 No.0 EQMM103号から115号(1965年)までを総括する。

1965年は、常盤新平編集長三年目、EQMM最終年でもあります。ここ数年のレベル低下から巻き返しを図りたいところですが、さて、どういう結果となりましたでしょうか。


作品の分布について

103号から115号までの作品数は全120編。

最低だった前年(1964年)以下の平均点

1960年(平均6.21)、1961年(平均6.02)、1962年(平均6.05)、1963年(平均5.57)、1964年(平均5.60)と6点以下に低迷したEQMMですが、今年(1965年)度はさらにレベルが低下(平均5.40)。かつての輝きや今何処といったところでしょう。

総数 平均 偏差 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.0 3.0 2.0
120 5.40 1.47 5 6 13 17 16 2 27 20 12 2
% 4.17 5.00 10.83 14.17 13.33 1.67 22.50 16.67 10.00 1.67

秀作

8.0ポイント以上は秀作。8.5ポイントはそれを上回る作品と評価します。

題名 作者 評点 コメント 掲載号
8.5以上の作品 : 0
悪魔はきっとくる アーサー・ポージス 8.0 中世を舞台に、妻を魔女として諫言された男の復讐物語。足跡トリックを含めて、良くできている。 1965-02-104
アネモネはそよぐ マッキンレイ・カンター 8.0 1860年代に行方不明になった父と兄を持つ医師が過去の謎を解く。展開がうまい。 1965-04-106
Mは2度泣く 小松左京 8.0 これは最高におかしい。ラストのオチなど吹き出してしまった。 1965-05-108
フォスター家の財産目録 カート・ヴォネガット・ジュニア 8.0 莫大な資産を持っているのに働き続けるストイックな男の描写がうまい。 1965-10-113
ワシントン・パーティの殺人 A・H・Z・カー 8.0 破傷風で亡くなった夫の死を疑う妻は関係者が出席するパーティに乗り込む。後半はなかなかの迫力。 1965-12-115
8.0の作品 : 5
秀作(8.0以上) : 5 4.17%

大きくスコアを落とした1963年(4本、3.20%)から持ち直した1964年(8本、6.45%)でしたが、今年度(1965年)は再度低下。これまた残念な結果となりました。


作家別頻出度

登場作家はトータル92名。

下記に2作以上登場した作家を一覧表示します。

ジュリアン・シモンズ : 4
マッキンレイ・カンター : 3
ロアルド・ダール : 3
アーサー・ポージス : 3
土井稔 : 3
ヒュー・ペンティコースト : 3
L・E・ビーニイ : 2
リング・ラードナー : 2
シャーロット・アームストロング : 2
トマス・B・デューイ : 2
レスリー・チャータリス : 2
エドワード・D・ホック : 2
マイケル・ギルバート : 2
ジェラルド・カーシュ : 2
リチャード・デミング : 2
ウイリアム・フェイ : 2
ダシール・ハメット : 2
ロバート・L・フィッシュ : 2
ヴィクター・カニング : 2
イアン・フレミング : 2
レイモンド・チャンドラー : 2


読むに耐えぬ作品

題名 作者 評点 コメント 掲載号
0004号は死の番号 青木秀夫 3.0 つまらんパロディ。 1965-05-107
007号 黄金の銃をもつ男 後篇 イアン・フレミング 3.0 よくこんなつまらん話を長々と書くよなあ。 1965-05-107
007号/マカオの冒険 イァ*・フレ*ン*translator 小鷹信光訳 3.0 全くつまらない出来。 1965-05-108
007号/ベルリンの脱出 イアン・フレミング 3.0 007もこれで終わり。 1965-07-110
嵐の中の娘 ジェイムズ・M・ケイン 3.0 嵐の中に出会った男女のつまらない話。 1965-07-110
ある女の兇器 土井稔 3.0 何というつまらない出来。 1965-07-110
スパイは醜悪に死ぬ 後篇 スターリング・ノエル 3.0 何の緊張感もないアクション物。長編分載によくこんな作品を選んだな。 1965-08-111
荘園の殺人 ドロシイ・B・ヒューズ 3.0 作者のひとりよがりに話が進むだけ。内容が理解できない。 1965-10-113
大仮装舞踏会の夜 ホウィット・バーネット 3.0 スペインで暴漢に襲われた男の幻想譚。つまらない。 1965-10-113
シャンゼリゼの女スリ ハリー・バーネット 3.0 パリでスリの被害にあった女の話。展開が特にないのにダラダラ長い。 1965-10-113
単純な裁き チャールズ・ノーマン 3.0 つまらない話。 1965-11-114
メグレと若い女の死(3) 最終回 ジョルジュ・シムノン 3.0 全く盛り上がりのないつまらない話。 1965-11-114
大棚ざらえ ロジャー・トーリー 2.0 とても読むに耐えない。 1965-01-103
いい人はザラにはいない フラナリー・オコナー 2.0 旅行の途中で襲われた一家。こんな残酷な話を載せてどうする。品位を疑う。 1965-07-110
問題あり(3.0以下) : 14 11.67%

1962年5篇(4.63%)、1963年12篇(9.60%)、1964年15篇(12.10%)と年々悪化し、全体の1割を上回るレベルになっていましたが、今年14篇(11.67%)もその傾向は変わらず。レベル低下に歯止めはかかりませんでした。


1965年総括

1964年度の総括で、

次年度はEQMM最終年となる1965年ですから、是非とも有終の美を飾ってほしいものです。

と述べましたが、残念ながらその期待を果たすことなく終刊を迎えてしまったようです。

本国版EQMMに見切りをつける動きは、1961年ころから見られており、1961年度の総括で「1961年のEQMMは、拡大化を目指している」記述したように、「テーマの拡大」や「長編連載の開始」など大きな変化が見られました。

また、翌年の1962年度の総括でも、

EQMM日本語版が、「ハヤカワ・ミステリ・マガジン」として生まれ変わるのは、これから3年後のことですが、すでにこの段階で、本国版EQMMから独立した雑誌に成長していると考えるからです。

と、1962年あたりから、日本版EQMMは大きく方向転換、進化してきていることを指摘しています。

その上で、1960年からのEQMMについて、

EQMMをVG回復させ、新たな方向性を作り上げた “小泉太郎こと生島治郎” は、名編集者であった。

と、2代目編集長”小泉太郎こと生島治郎”を高く評価したわけです。

さて、その流れを受け、1963年から編集長となった常盤新平はいかがなものでしょうか。1963年以降は平均が一気に5点台へ低下、3.0以下の作品が10%を超えるなど、レベルが大幅に下がった気がしてなりません。
言うまでもなく、この採点はわたしの主観にすぎず、客観性に乏しいかもしれません。ただ、投書欄『響きと怒り』に「このところのEQMMは面白くない」といった投書があったり、編集部自ら『巻頭言』でそのような意見が少なくないことを認めており、必ずしも一方的な見解ではないでしょう。この状態をすべて常盤新平編集長に押し付けるつもりはありませんが、その責任の一端があることは間違いないでしょう。

次年度(1966年)から新たに「ハヤカワ・ミステリ・マガジン(HMM)」として再出発した本誌はどうなっていくのでしょうか。あまり大きな期待はしていませんが、常盤新平編集長の今後の舵取りを見守っていきたいと思います。